県産材の需要拡大で、森と環境を守る!~森昭木材(株) 社長 田岡 秀昭氏(高知)

木の家の産業化

田岡氏

 私は、四国のちょうど真ん中あたりにある高知県の嶺北地域にある土佐町からやってきました。町の人口は4500人ほどで、子どもの年間出生数は20人程度です。私には孫が4人いますが、20年後、町が存続しえるのかという危機感があります。森を守り、暮らしを守る、そういう仕組みづくりが私たちの課題です。

 木の家の産業化ということで、最初に取り組んだのは設計士さんとの関係づくりでした。何より木の家を設計してもらわない限り、木は使ってもらえないと考えたのです。

 しかし、少子化、高齢化、過疎化はドンドン進行し、町はドンドンさびれていきました。一体どうしたらいいのかと考えた時に、もう少し山が動くような量が必要だと気付きました。そこで思いついたのが、「れいほく規格材」でした。住宅の部位別に規格化された木材です。これだと使い手も分かりやすく、町と森をつなぐ共通言語のような役割を果たすのではないかと考えたのです。

 町の人たちと一緒に取り組む中で、木の良さが分かっても、木造についての知識がよほどなければ現場で使えないということが分かりました。そこで「れいほくスケルトン」を考えました。これは産地側である私たちで全てカットし、基本構造体として骨組みを売るというものです。産地側として消費者のところへ直接いけないかと考え、地元の設計管理協会の協力も得て基本構造体を3パターン開発しました。消費者の皆さんに木の家について理解してもらうためのセミナーも開催しています。

 現在、高知県の設計家14人が参加し、「れいほくスケルトン」のプラン集を作っています。これは、施主さんに対する営業支援ツールとして工務店さんに渡したいと思っています。

日本の森林危機

森と町が手をつなぎ、木を使うことで山を守る

 日本の森林率は66%で、世界有数の森林国です。高知県は84%が森林で、全国一の森林県です。その森林がいま危機を迎えています。しかもその危機は、これまでと違い、切りすぎではなく、使われないことが原因です。

 日本では、第2次大戦後、国を挙げて植林活動を行った結果、1000万ヘクタールもの森林ができ、今や使える状態になっています。それなのに、日本の木材自給率は20%しかありません。つまり、国産材が使われないために、植えて、育てて、切って、使うという循環が途切れてしまっているのです。

 いま「緑の砂漠」といわれる状況が日本の森林の6割以上を占めているといわれています。間伐されない森林では、地面に直射日光が届かず、下草が全く生えず、まるで砂漠のような状態になっているのです。しかし、間伐することで、下草は伸びてきます。杉という「資源の森」と広葉樹でできた「環境の森」が両立できるのです。これが私たちの考える「理想の森」です。

使うことで森を守る

間伐し、下草刈りをすることで、杉という「資源の森」と広葉樹でできた「環境の森」が両立する「理想の森」ができる

 今、山に人がいなくなってきています。経済の循環が絶たれているために山で生活ができなくなっているのです。使うことで、その循環を取り戻すことができます。

 私たちは、徳島の生協のグループから生まれたNPO法人「里山の風景をつくる会」との交流があります。その生協は、嶺北にある棚田で合鴨農法や減農薬でおいしいお米を生産しているグループから直接お米を買っていました。消費者として安心安全なものを買うためには、源流の棚田を守り、棚田の暮らしを守ることが必要と考えたからです。ところが、その源流の良い水を育むべき森が荒れていることに気付いたのです。それなら、森の木を使うことで源流の森を守ろう、という家づくりがスタートしました。8年ほど前です。今やこのグループだけで50棟の家が建ちました。それが広がって「自然の住まい協議会」になっています。

 「源流の森を見に行くツアー」も一緒に取り組んできましたが、ある時、そこに参加したお客さんのお子さんが、「僕の家と同じ匂いだね」と言ったことがあります。自分の家の木の故郷がどこかわかったわけです。森と自分の家がつながった瞬間だったのだと思います。非常に感動的でした。

木材の環境特性

 町の皆さんと一緒にやっていく上で、非常に大事な視点が環境特性です。

 高知県では2005年度から「協働の森づくり事業」に取り組んでおり、環境先進企業などと「協働の森パートナーズ協定」を締結しています。CO2の吸収は、森林整備をしないと認められません。高知県では協定森林で吸収するCO2の量を京都議定書に準じて算定し、「CO2吸収証書」を2007年度から全国で初めて発行しています。

 さらに県では、今年から木造住宅が何トンのCO2を固定したかを証書として発行するようになっています。今後、県外に向けても証書を発行していけば、さらに木を使う意味を理解してもらえるのではないかと思っています。これからCO2吸収証書付の住まいがあってもいいのではないかと思います。これが日本全体に広がっていったらすごい量です。それをファンドに組み、木造住宅を建てた方にキャッシュバックがあるようにすれば、おもしろいのではないでしょうか。

森の未来に出会う旅

 2006年に高知大学農学部森林学科1年生の井上将太君が「いなかインターンシップ」で当社に来ました。彼は優秀でおもしろい学生でしたので、それまで私が自分の中で温めていた話をしてみました。「私は大学の建築学科で木造建築について教えないのはけしからんと思っていて、木造建築に関するセミナーを開きたいと思っているが、やってみないか」と。すると彼がそれに乗ってくれて、全国の建築学の学生に「森の未来に出会う旅」という7泊8日のセミナー開催を呼びかけました。

 前半は森のことを学びます。木造とは、木を使うとは、いかに長い時間かかって、いかにたくさんの人がかかわって、木ができていくかを学んでもらいます。実際に間伐体験もしてもらいます。後半は、建築士としての心構え、木構造、伝統工法について、設計を本業としている方に話をしてもらいます。

 寝泊りするのは廃校になった小学校です。そこで一緒に寝泊りしますので、強い連帯感が生まれ、最後のお別れの際には涙、涙の大合唱になり、大変感動的なセミナーになりました。

 2007年から2年連続で開催していますが、1年目は18人、2年目は16人、全国の建築学科の学生が来てくれました。5年間は継続し、約100名の嶺北のファンを増やすことで、嶺北の未来を変えていきたいと考えています。

 ある学生が、「これから林業と農業の時代になるかもしれませんね」と言ってくれました。今後、田舎を変えるのは、そういった若い力なのかもしれないなと感じています。

森と町をつなぐ地域全体の取り組み

 ツアーで見学に来てくれた皆さんには、できるだけ昼食を野外で食べてもらうようにしています。嶺北は畜産も盛んで嶺北牛というおいしい赤牛の産地です。安心安全の野菜づくりでブランド化に取り組む農家の集まりもあります。地酒もあります。地元のおいしいものを食べ、森林を見て、嶺北地域全体を好きになって頂くよう心がけています。

 行政も少しずつ目を向けてくれるようになり、「れいほくスケルトン」でモデルハウスを建てることになりました。町の全額出資で7年間運営します。その周辺に戸建ての賃貸を町が建てることになっています。

 1つの物事が進む時は、いろいろな方たちがかかわって、そのことで育ててもらっているということを今回強く感じました。それもこれも70年前に嶺北に良い杉を植えて、育ててくれた方がいたからです。先人に感謝したいと思います。

 今後も、思いを共にし、森と町をつなぐ役割を担って頂ける方と一緒になって育てていきたいと思います。これからが本当の意味での正念場だと思っています。

会社概要

設立 1980年
資本金 1500万円
年商 5億5000万円
社員数 22名
業種 製材業、木材販売業
所在地 高知県土佐郡土佐町
TEL 0887-82-1818
http://reifoku-skeleton.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 3月 15日号より