中小企業白書2009年版―イノベーションと人材で活路を開く

技術・技能の承継が技術革新成功のカギ

 『2009年版中小企業白書』(以下、白書)が4月24日、中小企業庁から発表されました。白書の副題は、「イノベーションと人材で活路を開く」です。

 第1章「2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢」、第2章「中小企業による市場の創造と開拓」、第3章「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」の3章で構成されています。(関連記事6面「同友時評」)

総崩れの状態の景況悪化

 第1章は、中小企業の景況分析ですが、「全ての業種が総崩れの状態」など白書では異例とも言える厳しい情勢認識を示しています。

 特に、製造業の業況が急激に悪化しており、「崖から落ちる」のたとえ通りの鋭角的な落ち込み方です(図1)。さらに、下請取引のある企業では、大手企業の減産の直撃を受けていることも明瞭です(図2)。

イノベーションと市場戦略

 第2章は、イノベーションによる市場の創造と開拓を課題としています。

 ここでは、「イノベーション」とは、技術革新にとどまらず、新しい販路を開拓したり、新しい組織形態を導入することなども含むものと定義しています。

 まず、イノベーションを実現するための中小企業の市場戦略についても検討しています。ヒット商品の開発に成功する条件について興味深い分析もあります。

 また、イノベーション実現のカギとなる人材と資金についての分析も注目されます。

 イノベーションを生み出す人材を育成する課題では、技術・技能の承継を上げる中小企業が最も多く、その継承を的確に行った企業は、技術革新に成功したとするところが多い結果となっています(図3)。

 さらに、研究開発に取り組む成長初期の中小企業の約4割が、希望通りに資金調達を行えていない現状もあります(図4)。

 新たな事業に対し、金融機関が円滑に資金供給を行うためには、金融機関の目利き能力が重要ですが、10年前と比較して「やや向上した」と評価する金融機関が多い一方、中小企業は「ほとんど変わらない」との回答が目立ち、「やや低下した」も13%あり、認識のズレを示しています(図5)。

将来を見据えた人材戦略

 第3章では、中小企業は人材が最も重要な経営資源と考えており、中長期的には労働力人口の減少が予想される中、将来を見据えた人材確保・育成戦略が求められていると強調されています(図6)。

 しかし、現状では、中小企業で二極化が見られます。例えば、新卒採用者では、従業員規模の小さな企業ほど、直近10年間で正社員として現在も働いている割合が、9割以上の企業と1割未満の企業に二極化しています(図7)。

 本章では、中小企業の正社員は、大企業と比べ、新卒者より中途採用が多く、異業種間でも人材の移動が広く行われているとし、雇用のミスマッチをなくすためにも、人材の橋渡しとしてハローワークや商工会議所などの積極的な取り組みが期待されているとしています。

 さらに、大学等の教育機関との連携や中小企業従業員の賃金、仕事のやりがい等について分析を進めていきます。

 最後に、働き方の見直しめぐる重要な論点である仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)について分析していますが、中小企業の経営者側と従業員側の認識のギャップについての分析は読みどころです。

 「自社では仕事と生活の調和が取れている」と考えている割合が高い経営側と、それほどでもないとする従業員側の認識のギャップは興味深いところです(図8)。

「中小企業家しんぶん」 2009年 5月 15日号より