中小企業白書 2010年版「ピンチを乗り越えて」解説

白書の概要

 『中小企業白書2010年版』(以下、白書)が4月27日、中小企業庁から発表されました。白書の副題は「ピンチを乗り越えて」。第一部で、最近の中小企業の動向について分析するとともに、第2部では、中小企業の更なる発展の方策として、国内制約が高まる中での新たな展開と、国外の成長機会の取り込みについて分析しています。その概要を紹介します。(関連記事7面「同友時評」

リーマン・ショック後の中小企業の動向

 第一部「最近の中小企業の動向」では、2009年度の中小企業の動向を概観するとともに、リーマン・ショック後の景気後退がわが国の中小企業に及ぼした影響を分析。中小企業の業況は、持ち直しの動きが見られるものの、業種・規模によってはその動きに違いがあると指摘。特に資金繰りと雇用は依然として厳しく、デフレや円高の進行等、先行きにリスクがあるしています。

 また今回の景気後退の特徴を明らかにするために、前回の景気後退と比較。景気の山と谷の差が大きく、低下速度も速かったことなどを指摘し、今回の景気後退がいかに深刻で急激なものであったかを明らかにしています(図1)。

図1

 また、経済危機の影響による従業員削減の有無を規模別に分析していますが、小規模な企業ほど削減を行なった割合が低く、厳しい経営環境の中でも雇用維持に努めてきた中小企業が存在していたことを示しており、注目したい点です(図2)。

図2

国内制約が高まる中での新たな展開

 第2部では、中小企業は、厳しい経済情勢の下、密度が低下する中小製造業集積の維持・発展、環境・エネルギー制約への対応、少子高齢化時代の新事業展開にどのように取り組み成長していくのかを分析しており、興味深いところです。

 中小製造業集積では、製造業の事業所数が大幅に減少。集積内には、わが国の製造業の根幹を支える高度な技術や工程を担う企業と、これらの強みを活(い)かして集積外から仕事を獲得してくる企業が存在することを明らかにしています。そしてわが国の製造業の競争力を強化するためには、こうした個々の企業の強みを活かすことのできる中小企業の連携を確保していくことが重要であると指摘しています。

 環境・エネルギー制約への対応では、温室効果ガスの89%を占めるエネルギー起源二酸化炭素について、中小企業の排出量は12・6%であると推計しており、興味深い提示となっています(図3)。

図3

 中小企業では、少子高齢化が進行する中、女性や高齢者の活用等の労働の多様化が進展(図4)。中小企業は、多様な人材を活用するために仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に取り組むとともに、必要な仕事に必要な人材が就くために業種間の人材移動や人材定着のための環境づくりを進めていくことが重要であると指摘しています。

図4

国外の成長機会の取り込み

中小企業は、アジアを中心とする世界経済の発展を、自らの成長にどのように取り込んでいくのかを分析。中小企業は、輸出や直接投資を開始した後に、労働生産性が上昇するなどの特色を指摘しながら、国際化にあたって、情報、人材、資金等の課題を抱えていることを指摘しています。

 また、貿易の自由化(自由貿易協定の締結など)は、中小企業にとってもメリットがあり、推進していくことが重要であると強調しています。ただ貿易の自由化については、国内産業への影響を懸念する声もあり、議論が必要なところです。

 なお白書では、2010年度に講じようとしている中小企業施策(案)も記述していますが、政府としても制定を明言している中小企業憲章については触れられていません。来年の記述に期待したいところです。

「中小企業家しんぶん」 2010年 5月 15日号より