成果主義の1つの「決算」

成果主義と企業業績、健康問題

 成果主義とは、言うまでもなく、仕事の成果を重要視する人事評価制度。一定期間における目標達成度を基準に評価して賃金に反映させようというものです。

 1990年代後半以降、大企業を中心に多くの日本企業が成果主義を導入しました。成果主義賃金体系は、成果に応じた報酬を与えることにより、社員の仕事の意欲をかきたてる仕組みとして有用である一方、さまざまな弊害が引き起こされると指摘されてきました。短期間で成果を出せるようなリスクの少ない仕事が好まれる傾向やチーム全体の利益より個人の利益が追求される傾向など。

 導入した職場からは、「高い目標に向かってモチベーションを上げて取り組む思想が皆無になってしまった。みんな目先の小さな目標の達成に躍起になっている」とか、「若年層を指導する立場としては、彼らに“考えること”“失敗を恐れないこと”などを重視し、長期的な意味での自己成長をしてほしい。仕事で成果を出すために効率的な方法だけを追求する人間に何の魅力があるのか。成果主義は近視眼的で機会主義な人物を養成してしまっている元凶に思える」など深刻な声も聞かれます(「このままでは成果主義で会社がつぶれる~読者アンケートに悲痛な声が続々」『日経ビジネスオンライン』2007年12月10日号)。

 1993年にいち早く成果主義を導入した富士通では多くの問題が噴出し、見直しを余儀なくされた話は有名です。その富士通グループの研究所から興味深いレポートが発表されました(齊藤有希子「成果主義と社員の健康」富士通総研経済研究所、2011年6月)。

 同レポートは、主に大企業やそのグループ企業の社員が加入している健康保険組合のデータから職場環境を捉え分析しています。データの期間は、2003年度から2007年度の5年間であり、その期間に存在した1496の健康保険組合すべてを分析の対象としています。

ここでは、成果主義導入の企業を、年齢内格差を拡大、年齢間格差を縮小した企業と定義。5年間のデータ分析によれば、企業内格差を拡大した企業が7割弱、年齢内格差を拡大した企業が8割弱の割合で存在しており、成果主義の導入が進んでいるとしています。また、長期休業率は、0・18%から0・23%まで増えており、近年指摘されている「うつ病などの精神疾患による長期休業者の増加」と整合的な結果であると分析しています。

 同レポートは、「業績の悪い企業ほど、年齢内格差拡大、年齢間格差が縮小し、成果主義導入の動きが観測される。また、このような企業において、社員の健康状態が悪いことが確認された。成果主義の賃金体系導入により社員の健康を害するという弊害が生じていることが示唆される」と結論づけています。

 このレポートは、成果主義の先達の企業グループの導入結果の「決算」といえるかもしれません。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2011年 8月 15日号より