【酒蔵17】本物のおいしさを求め続けて 初亀醸造(株)(静岡)

本物のおいしさを求め続けて
努力とチャレンジで酒文化を広げる
初亀醸造(株)(静岡)

吟醸酒王国・静岡

 東海道の難所、静岡・宇津谷峠のふもとに位置する岡部町に、初亀醸造(株)はあります。創業1636年、橋本謹嗣社長(静岡同友会会員)は19代目の当主蔵元です。1000石出荷、手作りの蔵元としては中小規模ですが、商品は吟醸、純米、本醸造の地酒があり、各種鑑評会で金賞連続受賞という静岡の名酒です。

 静岡の酒造りは、吟醸酒王国・静岡と高い評価を受けていますが、1965年ごろから、テレビコマーシャルの影響もあり、全国ブランドが席巻。また、消費者の嗜好(しこう)の変化もあいまって消費低迷、廃業や転業など苦難の歴史が想起されます(全国でかつて4500蔵あったものが今日では1600蔵に。そのうち黒字企業は3分の1)。

 そんな中でも、静岡の蔵元・杜氏の、本物のおいしさを求め続ける酒造りへの努力がありました。さらには、静岡工業技術センターが研究開発した「静岡酵母」も一役買い、清酒の出荷量が減少する中、付加価値の高い吟醸・純米、本醸造など特定名称酒が静岡では伸びています。特定名称酒は全国34%に対比し、静岡では83%を占め、清酒王国を誇っているのです。

酒文化の普及と新たな可能性の追求

 橋本社長は、酒造りは米、水、麹の良さと同時に、人の力が50%を占めるといいます。酒は造るものでなく、育て生まれるもの。初亀では「酒育て業」として酒造りに取り組み、「酸が少なく、さらっとしていて、香のある、切れのいい酒造り」を追求しています。

 一方で、酒販店、料飲店などとのコラボレーションで、酒文化を広げていこうとしています。「初亀サクセスセミナー」の開催をはじめ、全国を東奔西走、料飲店などと共同で「利き酒の会」「お酒を楽しむ会」など、プレゼン活動を展開しています。アメリカ・ニューヨークでも日本酒ブームにあり、初のプレゼン活動を計画しているとのことです。

 しかし、お酒の消費は年々減少。特に若い人は月2~3回程度の飲酒であり、人々の健康志向、食べ物との相性などもあり、成熟化の一途をたどっています。また、蔵元でも二極化が進み、収益格差が拡大しています。

 橋本社長は、蔵元あるいは酒販店も、従来のようにただお酒を売るだけでなく、思い切った販路拡大、原宿表参道の小売店など新たなイメージでの販売戦略、蔵の哲学、夢を一緒に飲んでもらうための挑戦、総合的なシチュエーション、イメージ、ブランドとしてのプレゼンが求められていると考えています。アメリカの日本食・日本酒ブームなども、世界相手に大きな可能性を秘めているとみています。

 最後に「純国産米使用を蔵の姿勢としている中、今後も日本農業が品質、安全を継続して安定供給ができるだろうか、心配の種はつきません。富山のJAとの連携をはじめ、多くの農業関係者とも連携を深め、さまざまな取り組みを進めていますが、困難も多くあります。日本の文化であり、歴史であり、人々の癒(いや)しと憩いに不可欠な酒。酒文化をさらに深く広げていきたい」と語りました。

【会社概要】
創業
 1636年
資本金 1500万円
年商 3億5000万円
社員数 10名
業種 酒造業(日本酒)
所在地 静岡県志太郡岡部町岡部744
TEL 054-667-2222

「中小企業家しんぶん」 2006年 9月 15日号より