【特集】ワーク・ライフ・バランスシンポジウムより~仕事と生活の調和で、魅力ある会社に

産・官協力で、学び合いの場を地域に広げよう

 2月16日、都内で内閣府などの主催で「ワーク・ライフ・バランスシンポジウム」が開かれました(本紙2月25日号既報)。中同協は第2部で、中小企業経営者向けの分科会「社員の力を引き出す中小企業経営者の姿勢とは~仕事と家庭が両立できる企業づくり」の企画・運営を担当。冒頭、糸数久美子・中同協女性部連絡会代表が会の紹介と趣旨説明を行いました。以下要旨を紹介します。(文責・編集部)

[報告者]
広浜泰久氏:(株)ヒロハマ代表取締役社長(中同協幹事長、千葉同友会代表理事)
齊藤浩美氏:(株)ヒロハマ社員(総務部管理課)
[助言者]
奥津眞里氏:独立行政法人 労働政策研究・研修機構統括研究員
[司会]
平田美穂氏:中同協事務局次長

【助言者からのコメント】中小企業の積極実践に期待します
労働政策研究・研修機構 統括研究員 奥津 眞里氏

【解説】ワーク・ライフ・バランスとは

(株)ヒロハマ(千葉)の取り組みより

企業は社員の生涯設計に責任もとう~広浜 泰久氏
仲間に励まされ、働きやすい職場を実感~齊藤(末吉) 浩美氏

 
入社の決め手はアットホームな雰囲

司会(平田) まず、ヒロハマの会社紹介を社長から、次いで齊藤さんの自己紹介をお願いします。

広浜 会社概要は別掲の通りです。当社の製品を分かりやすく説明すると、昔は灯油のブリキ製1斗缶がどこの家庭にもありました。あのキャップや取っ手などの缶の部品専門メーカーです。下請けではなく全部自社開発製品で、日本には3社しかなく、当社のシェアは45~50%です。

齊藤 私は1998年の新卒入社です。千葉同友会の合同企業説明会でヒロハマと出合い、興味をひかれ、後日会社訪問し、若手女子社員と食事をし、アットホームな雰囲気にあこがれて入社を決めました。

 所属は総務部管理課。総務部長と2人で社員の出退勤管理、社保手続きすべてを行いますが、社内の雑用係でもあり、ペンキ塗りや大工仕事もやります。

社員と協議し、ワーク・ライフ・バランスを実践

社員の生涯設計に責任を持つ

司会 では、本題である「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)、仕事と家庭が両立できる企業づくりの取り組みをご紹介ください。

広浜 私が同友会に入会したのは1990年、2年後に社長に就任しました。同友会で学んだことは、「企業家は事業を通して社会貢献をすること、社員の生涯設計に責任を持つということ」でした。責任を持つとは、物心両面で社員の自己実現を保証することです。

 物とは給与、休日の確保、長時間労働にならないなど職場環境整備です。心は仕事に対するやりがい、働きがいを感じてもらい、人生設計と併せて仕事の目標設定ができることでしょう。

 経営理念(別掲)の2番目には、社員の「能力」を「ベストの形で花開かせよう」としています。具体的には、「人事管理制度」の中に「職能資格制度」を確立、たとえば「製造3級」(1~9級まである)ならば、その内容を明示、さらに「級」はA~Eランクまであり、そのランクが基本給に連動する仕組みです。

 人事考課表にも連動しているので、(1)仕事内容、(2)給与、(3)評価、(4)教育が明確にされています。もう1つは自己申告制度と面接制度があり、常に本人の希望を聞きながら、配転や自己啓発につなげることがシステム化されています。

 当社は労働組合もありますが、こういう仕組みを遂行していく上で、子育て、介護によって生涯設計に白紙部分が生じることは労使双方の損失です。「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は最近知ったことで、もともと当社で進めていたことが時流に沿っていたということでしょうか。

 当社では、就業規則に書ききれない内容を「ヒロハマにおける行動原則」として成文化しています。そこには「あいさつ」や「働くことの価値観」も含まれていますが、たとえば「残業」については、「(1)お客の期待に応(こた)えられないのに残業しないのは最悪、(2)お客の期待に応えるための残業は普通、(3)お客の期待に応える仕事を時間内にやるのがベスト」と記してあります。

 こういう社内努力を積み上げて、子育て、介護も法令遵守(じゅんしゅ)の精神で具体化をはかってきました。

労使が協議し、休暇を取りやすい環境づくりに

司会 では、具体的な取得状況を、齊藤さんお願いします。

齊藤 育休は、今まで4名が取得しています。私は1回、先輩には、2人、3人と出産し、そのつど取得している方もいます。育児休業は子どもが1歳になる前日まで取れます。

 休業中の業務は派遣社員で充当しています。職場復帰後の短時間勤務は、通常8時25分~17時を8時55分~16時とし、1カ月以上1年以内の期間で子どもが小学校入学まで1回取ることが可能です。

 介護休業は2名の実績があり、これは正社員だけでなく、昨年は4時間勤務のパートさんも取得しました。父親が末期ガンで余命3カ月と宣告され、「退職したい」との申し出があったのですが、2カ月の介護休業を取ってもらい、対応できました。

広浜 育休、介護休は時代の流れですが、導入にあたっては社内でよく協議することです。休業中を派遣社員で対応しているのは、社員が職場復帰した時に元の職場にすぐに配置できるようにするためです。社内で臨時の配置転換をすると戻ってきた時にややこしくなるのです。ただ、3人目を出産した社員の場合は、残業のない職場に替わってもらった事例はあります。

 生産工場ですから、時短のためには生産性を上げねばなりません。当社は年間123日の休日です。年間総労働時間2000時間として、時間当たり付加価値が5000円とすると付加価値額1000万円、労働分配率50%で、全社員1人当たり500万円の付加価値となります。そうすると、一時間当たりの付加価値をどう高めるかが課題となります。組合も、生産性向上=労働強化だと反発するのではなく、お互いが共通の目標に向かって努力する関係となっています。

 残業時間についても、月30時間を超えると要注意と厳しく管理しています。

業務のマニュアル化で休業中のミスをなくす

司会 成功事例以外に失敗事例はありませんか?

広浜 派遣社員に仕事を任せていた時に、納期遅れが頻発したり、請求漏れが発生するというひどい状態になったことがありました。これは仕事のマニュアル化ができていなかったためです。齊藤さんは、それを改善して事前にマニュアルを作成し、派遣社員とのコンタクトもよく取っていたので、それからの問題はありませんでした。

司会 齊藤さんは、夫となられた方もヒロハマ社員とうかがいました。育休を取ること、職場を続けることへの不安はありませんでしたか?

齊藤 不安はまったく無かったといえば、ウソになります。しかし先輩で寿退社はだれもいませんし、育休実績のある先輩のいることが心強かったです。休業中に引き継ぐ仕事のマニュアルをきっちり残すこと。私の場合、引き継いだアルバイトの方がとても優秀な方で、現在は正社員として活躍していますが、彼女はマニュアルの更新もしておいてくれました。

 長期休業中は、毎日のように電話(メール)でやりとりし、週1回は上司からの職場レポートを主人が持ってきてくれました。また、給与明細書には社内報が入っており、会社の様子はよく分かりました。

 育休後は、子どもを保育園に預け出社したのですが、集団生活は病気をもらいがちです。私の部署は2人しかいませんので、子どもの看病で休む時は他の部署からの応援でしのぎました。先月も4歳の息子がインフルエンザで登園できず主人と交代で休みを取りました。

 学校行事に夫婦で参加するため休暇を取るケースもあり、育児のための休暇が取りやすい環境にあります。なお、当社はインフルエンザ予防注射を会社負担で受けてもらっています。

働き続けられる職場でこそ、生産性アップ

仕事大好き長く勤めたい

司会 私も2人の子どもを働きながら育てましたが、齊藤さんはこの会社で働き続けたいと思いますか? 社長さんの前で話しづらいかもしれませんが。(笑声)

齊藤 つらいこともありますが、そのつど周りの仲間に励まされてきました。保育園のお母さんたちとの話では、復帰後子どもの病気でたびたび休むので解雇されたとか、公務員の方も復帰できにくい雰囲気があるとか、3年間も休める制度があっても使えないという話を聞きます。

 その点、当社は働きやすい会社と認識しています。私も総務という総合的な仕事が大好きで、今後も続けていきたいと思います。

 同友会の合同企業説明会では、会社側からの説明を担当していますが、学生側も長く勤められる企業として注目してくれています。

ワーク・ライフ・バランスで、生産性向上を

司会 最後に、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは、企業にとって負担になるとの不安を持っている経営者の方もいらっしゃると思います。この点はいかがでしょうか?

広浜 実はメーカーの立場からすると、製造ラインでの生産性は女性の方が高いのです。これは家事をやっているせいか、段取りが良い。単に年数を重ねるだけでなく、仕事の改善につながる提案、無駄を省き、残業をなくすことで抜群の成果をあげている事例がいくつもあります。

 ワーク・ライフ・バランスは、取り組み方によっては生産性が上がるのです。

齊藤 私の場合も、定型業務は短時間で終わらせるようになり、残り時間は会社全体で取り組んでいるコスト削減に何かできないかをいつも考えています。

 ラインごと、社員・パート・派遣ごとに早出・残業をチェックし、データ化していく。そうすると、どのラインでトラブルが多いかが見えてくるのです。

 また、非常時の対応マニュアルをいく通りも作成し、私のパソコンに入れておくこともしています。まだ使ったことはありませんが、自分の仕事に余裕を持つことで、いろいろな方面に手を伸ばすことができるようになり、これも私のやりがいとなっています。

地域に学び合いの場を広げよう

司会 今、地域経済の疲弊(ひへい)が進み、日本経済と国民の暮らしに赤信号が灯り始めている時、中小企業の活性化が強く求められています。

 企業を元気にする源、それは社員が能力を発揮し、生き生きと働き続けられる会社であることです。生涯設計できる会社が切望されています。ワーク・ライフ・バランスはそのことを目標としています。

 もう1つは、本日の参加者の約半数は全国の自治体からお集まりの皆さんです。中小企業団体とハラを割った話し合い、学び合いの場をもっと地域に広げていくことの必要性を痛感しています。本日の成果を全国に広げていきましょう。

(株)ヒロハマの経営理念

1、缶パーツとその関連技術を通じて、缶の社会貢献を全面的に支援しよう
1、1人1人の持つすべての能力、共にベストの形で花開かせよう
1、現場で現物を見て現実を把握し、原理・原則にのっとって対処しよう
1、お客様と我々自身に還元するために、一切のムリ・ムダ・ムラを無くして最大の利益を追求しよう

会社概要

創業 1947年 法人化 1951年
資本金 6250万円
年商 29.6億円
社員数 正社員 75名、パート・アルバイト 45名
業種 業務用缶のキャップ等部品製造
所在地 本社・東京都墨田区 工場・千葉県船橋市、大阪府高槻市、関連会社・4社
http://www.cap-hirohama.com/


【助言者からのコメント】中小企業の積極実践に期待します―労働政策研究・研修機構 統括研究員 奥津 眞里氏

 (株)ヒロハマの事例は、男女共に働く側にとって納得のいく明朗、明瞭な経営がなされている、まさにワーク・ライフ・バランスの基本姿勢の実践であると思います。

 労働者にとって、長期に休むことは大変なこと。齊藤さんは休業前に次の人へのマニュアルを作成し、休業中も企業とのコミュニケーションがあったのですが、組織の機能を落とさないようにされた自己努力は、大いに評価されることです。

 日本の人口減少社会への対応は、この5、6年が勝負です。2015年あたりから減少問題が顕著になります。しかも人口は全国一律に減るのではなく、東京の減り方と地方の減り方は違って、若い人は東京へ集まり、地方の減少に拍車をかける。過疎化が急速に進むのです。

 この傾向をなんとか食い止めたい。そのためには、その地域の住民が安心して働ける中小企業が各地で頑張っていただきたいのです。

 ワーク・ライフ・バランスは新しい言葉ですが、「豊かで健康な生活」という意味で従来からも言ってきたことです。今になって国が声を上げているのは、人口減少社会の中で、若い女性の子育てを男性も含めて支援することを始めとして、さまざまな事情を克服して、多くの人が働ける社会をつくろうということなのです。

 ワーク・ライフ・バランスの実現で今一番問題になっていることは、(1)労働時間の長さ、(2)労働者管理の硬直性、(3)業務量・密度、の3点が阻害要因となっていることです。

 限られた時間内でのやりくり、制度にどう融通を利かせるか、業務量・密度が高まることへの対処、(株)ヒロハマの事例では顧客本位で残業の考え方を3分類するなど制度面と非制度面(社内の思いやりの気風)の充実に感心しました。中小企業の柔軟性をフルに発揮していると思います。

 今後もこのような事例が多く生まれることに期待します。

「中小企業家しんぶん」 2008年 3月 5日号から