地域に生きる同じ生活者として~トータル・ソフトウェア(株) 社長 今給黎 正己氏(鹿児島)

「社員さんと同じ目線で」と交換日記も

今給黎氏

 「中小企業は大企業より働きながら子育てしている女性の割合が高い」とは、「中小企業白書」(2006年版)の報告です。「同じ生活者だから」と、社員一人ひとりの生活を考えながら経営する、トータル・ソフトウェア(株)社長の今給黎(いまきいれ)正己氏に話を聞きました。

身近な会社

 病院や保育園などの栄養管理のパッケージソフトを販売するトータル・ソフトウェア(株)(今給黎正己社長、鹿児島同友会会員)社屋は、閑静な住宅街の一角にあります。

 「歩いて通えるので、子どもが夏休みなど、帰宅してお昼ご飯を一緒に食べられ、安心です。また、母の介護で通院するのも半日休暇を取らせてもらえ、助かっています」と、徒歩5分のところに住んでいる社員からは好評です。

 主力商品である「栄養管理ソフト」の導入実績は4000本、全国47都道府県にわたります。2004年より、アフターサービスとして保守契約を導入。まもなく保健指導対応ソフトも出す予定です。

マイナス7000万円からの出発

 今給黎氏が知人とともにトータル・ソフトウェア(株)を設立した当時は、大島紬のデザインソフトを開発し、紬生産地の業者に順調に普及していました。

 しかしその後、先代の社長が大病を患い、96年に今給黎氏が社長を引き継ぎましたが、紬業界の低迷で累積赤字1000万円、借入残7000万円からの出発となりました。「栄養管理ソフト」を事業の柱に据え、3年ほどで経営は回復。「そこで私は有頂天になり『経営者の特権』で、飲むことが中心の会や平日ゴルフに参加していました」と当時を振り返ります。

転機となった同友会での経営指針セミナー

 同友会に2000年に入会し、グループ討論が苦手で出席するのがおっくうになりかけていたころ、経営指針セミナーに参加。

 「自主・民主・連帯」「労使見解」の話の中で、「あなたがた経営者は、一人ひとりの社員がどんな生活レベルで生活しているか知っていますか?」と講師が参加者に問いかけました。「それまで、そのような視点で考えたことがなかったので大きな衝撃でした」と今給黎氏。

 「経営者だからといって許されるという甘い考えは間違っている。社員さんは限られた給料の中で家賃を払い、食費を節約し、家族を養っているのだ」と自覚しました。

 その後、今給黎氏は同友会の例会や経営フォーラム、全国行事にも参加するようになり、同友会以外の会は辞め、平日ゴルフも止めて、交際費をできるだけ使わないようにしました。

生活者として社員と同じ目線で

 また、「ちょっとした問題があって、『当てにしない社員』と心の中でレッテルをはっていたある若い女性社員さんからは、『私に偏見を持っているのではないか』と問題提起され、社員さんを1人の人間・生活者として見ていなかったことに気づきました。社員さんと同じ目線で考えよう。どんな生活を営み、どんな苦労をしているのか、理解しよう」と努めるようになりました。

 具体的には、朝礼の司会を社員の交代制にし、社員と日々交換日記を行い、毎日社長からのコメントを全員に書くようにしています。そのほか、個人面談、家庭訪問(不定期)、幹部研修、社員研修、掃除・委員会活動などを行うことで、社員との信頼関係が強まり、徐々に社内の雰囲気が明るく、前向きに変わっていきました。

「パートナー」だから

 トータル・ソフトウェア(株)の経営理念に、「私たちは、全社員の信頼関係のもと、個性と能力をおしみなく発揮でき、社員と共に発展する企業を目指します」があります。

 現在は、同友会副代表理事を務める今給黎氏。「私は社員のだれ1人の代わりもできません。PTAで社員さんと会うこともあり、地域の中でもそれぞれが大切な存在です。今年の個人面談で、昨春結婚した女性社員さんが、子どもができたら育休をとりたいと言ってくれています」とうれしそうに話しています。

【社員から】

「社長とも話ができ、やりがいがあります」と話す安富聖子

「自宅の近所に会社があって助かっています」という中川万里子さん

会社概要

創業 1979年
社員数 12名
資本金 1000万円
年商 1億4000万円
業種 パッケージソフト(医療、福祉施設向けの栄養管理)の開発・販売ほか
所在地 鹿児島市紫原
TEL 099-253-6041
http://www.tsc-inc.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2008年 4月 15日号より