経営指針の確立と女性の戦力化 (株)エステム会長 鋤柄 修(中同協会長)

「労使見解」の実践としてのワーク・ライフ・バランス推進

 9月5~6日、神戸で開かれた中同協女性部連絡会役員研修会は、「『労使見解』の実践としてのワーク・ライフ・バランス」として、鋤柄修・中同協会長の実践報告に学びました。その報告要旨を紹介します。

公害対策で水処理業は急成長

社員も参加してエステム社内で開かれた「なごや環境大学」の一場面

 私は、義父の経営する菓子メーカーで営業を担当していましたが、思うように業績が上がらず会社の身売りの話も出てきたため、大学の同級生である友人が創業した総合施設サービス(エステム(株)の前身)に1971年に入社しました。

 当時、四日市ぜんそくや水俣病など公害を規制する法律が制定され、工場排水は基準値以下に浄化して流さなければ操業ができなくなり、水処理をしていた当社に追い風となりました。大手水処理メーカーが工場排水のプラントを製造・設置し、運転技術をサポートする仕事を大手メーカーの代行として引き受け、本社からの電話1本で走り回り、会社は3、4年で軌道に乗りました。

まちがえた「社員のため」から労働組合誕生

 その結果、人手不足に陥り、大学の後輩に10人余り一緒に働いてもらうことにしました。目標の売上3億円は8年目に達成。完全週休2日制を導入し、残業を廃止。社員は会社でマージャンをし始め、私も社長も好きでしたので、率先して加わりました。マージャン道具は全て会社の福利厚生費でした。

 会社が10年目のとき、2千数百万円の特別な利益が出たため、社員の喜ぶ顔が見たかったので、社員に分配しました。しかし、評価制度もないのに社員を3ランクに分け、ランクに応じて賞与として渡したところ、その夜のうちに社員は互いの賞与を知り、ランク付けに不満が爆発、労働組合が誕生しました。社員が30人いましたが、飼い犬に手をかまれた思いでした。

 組合は評価基準や賃金体系を要求。苦々しい思いをしながら、労使が一緒になって、それらをつくることになりました。社長と私はコンサルタントについて勉強を始めていましたが、偶然、地元紙で「愛知同友会」のことを知り、志願して入会しました。

「経営者の責任」を同友会で学ぶ

 例会にも熱心に参加し、1984年には、第1回労使問題全国交流会に参加しました。報告者は当時中同協労働担当常任幹事(現・相談役幹事)の赤石義博さんでした。赤石さんの話は哲学的抽象的で、よく理解できないまま、翌日はゴルフ仲間を募って朝から脱走しました。

 しかし、それから赤石さんから何か学べるのではないかと、全国の行事で追っかけをするようになり、理解が深まったのが「労使見解」(中小企業における労使関係の見解)でした。

 最初に「経営者の責任」の項があります。「経営者である以上、いかに環境が厳しくても時代の変化に対応し、経営を維持し発展させる責任がある」とし、経営者が会社の方向性を示し、社員との信頼ができれば、社員は生き生きと働き、自主性を発揮できると書いています。そして、会社は継続だけでなく、発展させなければならない、としています。

経営体質の強化へ経営指針の確立

 労働組合ができたことで緊張感が生まれ、よりよい会社にしていくために経営指針を明示し、経営者と社員が一緒に取り組むことの大切さを実感。同友会の共同求人活動で新卒採用もし、共に育つかかわりで社員教育を行う。そのことを毎年繰り返し行ってきたことで当社の今があります。

 それから女性社員の戦力化です。金型メーカーで愛知同友会前会長の佐々木さんから、「女性社員をルートセールスにしたら、細かいところにも気づき、取引先から喜ばれた」との話を聞きました。今では当社も社員は360名ほどになり、80名ほどが女性社員です。

 経営者は環境変化を敏感に感じ取り、経営のかじ取りをしていかなければなりません。私はこれからは少子高齢化が進むと推測されていた20年ほど前から、有識者に学びました。

女性の戦力化と社風

 私の妻は幼稚園の先生の資格を持っていましたので、結婚2年目から働き始めました。女性も働く意思があれば働く、経営者は環境を提供することで、その能力を発揮してもらうことができます。

 当社の水処理の現場は男社会で、役所も「トイレがないから」などの理由で女性を現場に入れようとしませんでした。しかし何とか説得してトイレも確保し、短大卒の女性社員を40人ほどの現場に入れたところ、現場からも大喜びされ、毎日が歓迎会です。

 また、静岡大学工学部卒業の女性を採用し、工事部門に配属しました。父親から反対されたようでしたが、今では結婚し、部門長として働き続けています。

 経営企画部の女性は、入社して結婚し、子どもも3人います。今では部下を抱え、てきぱきと仕事をこなし、管理職ですが、定時に退社しています。

 子育てに専念したい社員もいますので、いったんパートになり、本人が望めば、子育てが一段落したところで正社員に復帰できるようにしています。

 先日、愛知同友会3000社必達の際に、当社の未来を背負っていくであろう女性幹部社員を入会させました。これからの時代は男性は女性の指示に従って動く。そんな予感もします。

働き続けられる会社に

 もう1つは、社員が生涯学習し、生涯勤労できる環境作りです。当社は60歳定年ですが、希望したら65歳まで働ける。70歳まで働くこともできます。また、エステムとは別にNPOも作りましたので、希望すれば一生働き続けられる環境を作りました。

 働き続けたい人は、仕事が楽しいんです。仕事が苦しいうちは経営理念が浸透しているとは言えない。「労使見解」を実践するとは、社員が働き続けたくなる会社にしていくことを言うのではないかと思います。

 厳しい時代だからこそ、社員とともに乗り切っていきたいと思います。

会社概要

設立 1970年
年商 38億円
資本金 7000万円
社員数 370名(非正規18名含)
業種 水処理プラント設計・施工・メンテナンス、水質分析・環境装置・機器販売ほか
所在地 名古屋市南区弥次ヱ町
TEL 052-611-0611
http://www.stem.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2008年 9月 15日号より