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【第1次産業を地域再生の光に】(6) ふるさとの風景を守りたい-耕作放棄地の再生も

農業生産法人(株)旬果市場 社長 小林智斉氏(山梨)

小林社長

 いつになく厳しい真夏の太陽が照りつける8月末、山梨県甲府市に、農業生産法人(株)旬果市場の小林智斉社長(山梨同友会会員)を訪ねました。まだ30代の小林さん。ふるさとの景色を守りたいと、農家の後継者になることを決意、第一歩を踏み出しました。

ふるさとの荒廃を目の当たりにして

 東京の大学に進学し、そのまま東京で働いていましたが、10年前に父が亡くなったことをきっかけに、母が暮らす実家に戻ってきました。専業農家でしたが、跡を継ぐことを両親も特に望んでいませんでした。しかし、久しぶりのふるさとで見たものは、農業をめぐる危機的状況でした。一見すると、昔のように田んぼが広がり、桃や梨の果樹園も健在でしたが、内実は、農業の担い手は高齢化し、後継者もいない。近所に耕作を依頼したり、何年も放っておかれた農地はすっかり藪におおわれ、中に踏み込めないほどでした。

 「このままでは、子どもの頃から見なれた大好きな風景が荒廃してしまう。なんとかしなければ」。この現状を目の当たりにして、農業に自ら携わることで、ふるさとの景色を守ろうと決意します。次世代の担い手の育成と、「儲かる農業」にしていくこと、その中で、「耕作放棄地の増加を防ぎ、荒れ地になってしまった土地を農地に戻していく活動をしよう」「そのためには会社組織にすることだ」と、2008年10月に株式会社を設立しました。

早く農業後継者の受け皿をつくらなければ

 当初は、自ら生産はせず、地元の農家と契約し、農家から直接仕入れ・販売を行っていました。しかし、「農協に売るから」と、仕入れに苦労したこともあり、「おいしい」といって食べてくれる消費者に、「これは私たちが作った作物です」と言いたいという思いが強くなってきました。さらに、「早く農業後継者の受け皿になっていかなければ、間に合わない」と、今年5月に農業生産法人となり、農産物の生産を開始しました。

 農業生産法人になると同時に、全国農業会議所による「農の雇用事業」を利用して、農業大学校卒の20代の若者2人を採用。社会保険に加入していることが条件で、1人月9万7000円が1年間助成されます。研修指導はこの道20年の母が担います。

 現在、若い人で新たに農業を始める人も多いですが、ネックは、農地をなかなか貸してもらえないこと。小林さんはもともと専業農家だったことから、それまでの地域のつながりから近所の遊休農地を信頼して貸してもらえるだけでなく、高齢化してもう作れないので、代わりに作ってほしいと頼まれることもあります。

旬のものを直接消費者に

耕作放棄地

 現在、旬果市場の作付け面積は、梨畑20アール、桃畑20アール、野菜用畑50アール。耕作放棄地賃借90アールのうち50アールは甲府市の支援を受け、年内に開墾のめどが立ちました。

 梨は、父が20年前に植えたもので、木で熟したおいしい梨を食べてもらいたいと、1本ずつのオーナー制を実施。トウモロコシは、生で食べられる地元特産の「きみひめ」の栽培に力を入れています。これは、甲府市など山梨県中道地区の地域ブランドとして売り出しているものです。東京で市長も呼んでイベントを開こうとの企画が持ち上がりましたが、今年は実現せず、来年こそはと張り切っています。東京にある山梨のアンテナショップで売り出したところ、好評でした。

 小林さんがこだわるのは、消費者に直接販売することです。顔と顔が見える関係の中で、こんな食べ方もあるよ、と話ができたり、「おいしい」と喜ぶ顔を見ることができる。「お見舞いでもらった桃がおいしかったから」と、入院患者から直接注文が入ったこともありました。

 高速道路を使えば一時間で東京の中心地まで行ける地の利を生かして、朝採りの新鮮野菜をそのままトラックに積み込み、生産者が直接販売できます。ネット上での販売は、直接販売でファンになってもらった方を中心にしていきたいとのこと。まずはファンを増やしていくことが課題です。

耕作放棄地の活用めざすNPOにも参加

 旬果市場は、NPO法人「えがおつなげて」が実施する「やまなし企業ファームリーグ」事業に参加しています。「全国第2位の耕作放棄地率の山梨の遊休資源を、企業と連携して活用し、かつその連携を軸にさまざまな地域資源開発に発展させ、500億円の地域産業を創造する」というもので、2009年度の内閣府による地方の元気再生事業にも選ばれています。

 「ファームリーグ」事業は、山梨県を8地区に分け、サッカーのリーグ戦のように、各地区が競い合って、それぞれの地域性を生かしたビジネスモデルの構築をめざします。東京の企業にも呼びかけ、ビジネスモデル発掘ツアーも行いました。

 旬果市場が属する峡中地区ファームチームでは、生産量日本一を誇る桃やブドウを始め、「フルーツ王国」山梨ならではのさまざまな果実を耕作放棄地で栽培し、甲州の八珍果(ブドウ、梨、桃、柿、栗、リンゴ、ザクロ、ぎんなん)にちなんだ「新八珍果」とし、これらを使った日本一のフルーツポンチを作ろうなどと提案しています。

農業が業として成り立つ仕組みづくりを

 「安売り競争に巻き込まれず、自分で値段を決められる農業にしていきたい。それには、いいものを作るだけではだめ。いかに売り、いかに喜んでもらえるか、そして、どれだけ安定した品質で安定供給していけるか、その仕組みづくりを考えること。そうなって初めて農業は社会に貢献できる『業』となり、若者も夢を抱いて後継者となっていけるのではないか」。

 始まったばかりの挑戦ですが、ある冷凍技術を持った会社との出会いから、香港で9月に開かれた「アジア・フルーツ・ロジスティカ2010」に桃や梨をサンプル提供するなど、積極的に外に出て行き、さまざまな出会いの中から、ビジネスチャンスをつかんでいこうとしています。

会社概要

設立 2008年
資本金 300万円
社員数 2名
業務内容 農産物の生産・販売
所在地 山梨県甲府市上向山町
TEL 055-220-5066
http://shun-ka.com/

「中小企業家しんぶん」 2010年 11月 5日号より

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