【新春座談会】「3つの目的」の総合実践で「中小企業が主役」の社会を

同友会運動は歴史の検証に耐えられる運動

 2012年がスタートしました。昨年は東日本大震災により、多くの尊い命が失われ、多数の方が厳しい生活を余議なくされました。一方で、復旧・復興の担い手として、中小企業や同友会への期待が一段と高まっています。企業づくり、地域づくり、同友会づくりをどう進めていくか、新春座談会を行いました。

新春座談会出席者
中同協会長 鋤柄 修氏((株)エステム会長)
中同協幹事長 広浜 泰久氏((株)ヒロハマ会長)
中同協副会長(宮城同友会代表理事) 佐藤 元一氏((株)佐元工務店社長)
司会/中同協事務局長 松井 清充氏

Ⅰ 復旧・復興の担い手として

司会 新年あけましておめでとうございます。
 今年は東日本大震災からの本格的な復旧・復興に第一歩を踏み出す年であり、また大きな構造転換も予想される年でもあります。そのような中で、企業づくり、地域づくり、同友会づくりにどう取り組んでいくのか。特に広浜さんには同友会づくり、佐藤さんには震災からの復興、鋤柄さんには中小企業憲章・中小企業振興条例推進運動を中心にお話をお願いします。

新しい日本の形を(広浜)

広浜 今年は復旧から復興へ向かう年。新しい日本の形を考えなければならない年になると思います。赤石中同協相談役幹事がよくお話されている「生きる」「くらしを守る」「人間らしく生きる」に沿って考えてみると、「生きる」という点では、津波への対応や自然との共生などの問題があります。そして日本の国際的なポジションとしては、「世界一安全・安心な国」をつくるということが、これから日本が発展するキーポイントになるのではないでしょうか。
 「くらしを守る」点では、特に雇用とエネルギーの面で地域循環型社会をつくっていくことが重要です。そして地域コミュニティがきちんとしていないと本当の意味でくらしを守ることになりません。そしてその地域コミュニティを支えているのが中小企業です。
 「人間らしく生きる」という点では、自主・民主・連帯の精神を十二分に生かして、一人ひとりの素晴らしさが最大限発揮される社会をめざしていくべきです。昨年、ブータンの国王が来日しましたが、ブータンではGNPではなく「GNH」(国民総幸福量)が重視されており、考えさせられる切り口です。

豊かさに貢献できる企業に

 企業づくりでは、本当の豊かさに貢献できる企業づくりを考えていきたい。私は「自立型企業」とは、ひと言で言えば「提案型企業」と考えています。当社では、最近特に強く提案しているのが、ユーザーに対する技術支援です。例えば新しく製品が採用された時は、最初は必ず立ち会い、何かあった時にはその場で手直しをするようにしています。お客様も安心感があります。そういうことで信頼感が出てくると周辺機器についてもお声がかかるようになってきています。
 当社の理念のひとつに「缶の業界を全面的に支援する」というものがありますが、それを追求していると、さまざまな提案がでてきます。自社がお客様にどんな機能を果たすべきかを明確にすることで、そこからいろいろな提案が生まれてくるのだと思います。
 自主・民主・連帯の精神は会運営だけでなく、一人ひとりのあり方にもあてはめることができますが、会社・法人としてもこの精神を持つことが重要だと感じています。自立型企業とは、法人としての自主・民主・連帯を考えることだと思います。
 そしてそれを進めていく上では、経営指針に基づく全社一丸経営に取り組むことははずせません。
 同友会づくりでは、1つは小グループ活動や全会員訪問活動など、「顔の見える活動」を強めること。2つ目は体系的な組織強化を進めること。つまり、会員増強や役員研修、事務局の強化・労働環境整備、広報・情報化・報道などが体系的に構築されることが大切です。3つ目は、ブロック活動が活発化してきている中、ブロックと中同協の役割・機能などについて改めて検討していきたいと考えています。

地域のための真の復興を(佐藤)

佐藤 まずは、今回の震災にあたっての全国の皆さまからの多くのご支援に心より感謝申し上げます。仙台市は瓦礫処理がほぼ終わり、いよいよ復興工事に入りつつありますが、甚大な被害のあった沿岸地域では、いまだ瓦礫処理の段階です。沿岸地域は、復旧工事がいつ終わるか、まだまだわかりません。

復旧・復興のリーダー

 そのような中、私たちが仲間として勇気をもらったのは、復旧・復興のリーダーは、ほとんど同友会会員が担っているということです。同友会の「経営指針を創(つく)る会」で経営指針づくりに格闘し実践してきた方が復旧・復興の大きな力になり、地域に希望を与えています。経営指針づくりは企業経営だけでなく、人間の生き方としても大きな意味があると感じています。
 瓦礫処理の作業は、仙台市以外では全て大手が受注しました。道路の障害物を撤去して通行できるようにする啓開(けいかい)作業は、一番大変ですが、地元の企業しかできませんので、地元企業が昼夜兼行で行いました。道が通れるようになると、大手が来て、瓦礫処理の仕事をとる。それも普段の単価の5倍くらいの価格です。
 仮設住宅もしかりです。最初は全て大手がつくるという話でした。地元の企業が抗議して若干は地元の企業にも仕事がまわってきましたが…。大手のつくったところは、寒くなってから断熱工事をしていました。地元の企業だったら始めからわかっていることです。全てちぐはぐなのです。
 昔ながらの中央集権がそのままで、こういう緊急時でも地方自治体の権限は限られていると感じます。震災前から自治体職員の定員も削減されてきているため、1人あたりの仕事が大変増えています。例えば瓦礫処理工事の発注でも、大手なら1社でできる仕事を、中小企業に発注すると10社、20社と必要になります。行政側としては手間暇がかかります。しかし手間暇がかかっても、地域を守る上ではやむを得ないという意識の変換が求められていると思います。
 民間住宅も、大手住宅メーカーは自社がつくった住宅しか面倒を見ません。地域に根ざした工務店は絶対に必要です。当社でも震災以降、家を修理してほしいという依頼が延べ900件くらいありました。地元の工務店がホームドクターとして必要なのです。
 宮城県の復興に関しては、中小企業憲章が全くと言っていいほど反映されていません。千葉県や北海道の帯広市・釧路市などのように、本当に官民が一体となってつくった中小企業振興条例があれば、こんなことにはならなかったと実感しています。県内の支部がある全地域で条例を制定する運動、そして憲章の具体化を求める運動に早急に取り組む必要があります。
 幸い仙台市の外郭団体である[T]仙台市産業振興事業団とは、共同求人活動での連携が進んできています。また県南部の柴田町からは「条例をつくるから手伝ってほしい」との要請が宮城同友会にあり、それに応えながら支部をつくる準備も進めているところです。
 国などへの要望はたくさんありますが、われわれの側も付託に応えられる良い企業づくりをきちんと行いながら、仲間を増やす運動を両輪にして取り組んでいくことが必要です。
 石巻・南三陸・気仙沼の三陸沿岸3支部では、約9割の会員が被災しています。多くの会員が工場や家が流されたり、商品・設備・材料が流されたり、壊滅的な被害を受けており、億単位の損失を被った会社も少なくありません。その中で、会員同士が共同事業を立ち上げ、企業の再建、地域の復興に向けてがんばっているところも増えてきています。

大きく変化した価値観

 震災を通じて、わが社でも価値観が大きく変わりました。「モノから心」「見えるものから見えないもの」へ価値観が移ってきていると感じています。震災以前から事業の定義も「請負型建設業」から「快適生活環境創造業」へと見直しましたが、経営理念も組織も見直し、全社一丸体制をつくり、お客様のニーズに対応できる質を高めようと取り組んでいます。その一環として住む人の健康を考え、自然に一番近い無添加住宅を展示場に出展します。
 今、関東以北の地域では、どこも職人がいないというのが悩みです。当社では、他県の同友会事務局を通して、それぞれの会員企業の協力で職人さんに応援に来てもらっています。非常にありがたいことです。
 大企業と中小企業はそれぞれ役割が違います。役割を明確にして、地域に根ざした、地域のための、地域の人々による真の復興を実現していきたい。そのためにも憲章を背景にした条例制定運動を強力に進めていきたいと思います。

地域のリーダーとしての役割を(鋤柄)

鋤柄 憲章ができたけれどもあまり機能していない。これも現実です。憲章ができても、私たちのくらしや仕事に直接関わる市や町に条例をつくらないと機能しないとわかってきました。行政職員も憲章のことを知らない人がほとんどです。われわれがいろいろな機会に知らせていくことが必要です。
 私も被災地を訪問しましたが、被災地域に同友会の組織があるところは、比較的人と人とのつながり、全国とのつながりが機能していたようです。同友会は全国に約四万十00人の仲間がいますので、いろいろな形で支援ができました。東日本大震災において、同友会はその機能を発揮できたのではないかと思います。中同協として、今後も引き続き全力で支援活動に取り組んでいきたいと思います。
 各地域では、同友会の会員が地域のリーダーとしての役割を発揮し、地域の中で積極的に発言もして、復興計画づくりにも関わっています。福島同友会相双地区の南相馬市への提言書などすばらしい内容になっています。今後も各支部で、復興計画づくりやその実現に関わっていくことを期待したいと思います。地域の具体的な仕事は、中小企業がやらないと本当に心の通ったものになりません。地域に根ざした中小企業が、もっと正々堂々と行政に対しても発言すべきです。
 そのためには、同友会の3つの目的を同時に実践していることが必要です。企業がそれなりにしっかりし、経営者も見識があり、地域の仲間と一緒に地域のことを考え発言する。この3つのことが同時に実践できる役員が支部に何人いるかです。そういう方が複数いる支部は、まさに「社会の主役」としての行動ができています。

変化する業界の中での対応

 当社は上下水道関連の仕事をしています。この業界は建設の時代が終わって、「オペレーション&メンテナンス」、つまり運転管理をし、メンテナンスをし、施設を長く安全に使えるようにするという仕事が中心になってきています。また、建設して40~50年経つ上下水道などが、更新の時期を迎えています。それに対して、メンテナンスを行っている現場からいろいろな提案をして、つくり換えたり、増強工事をするという時代の流れになっています。
 そのような中、それぞれの地域でナンバーワンの同業者が当社も含めて4社集まり、企業連合をつくりました。地域にねざした企業同士で、全国ネットワークをつくることをめざしています。その目玉の1つは、次世代型システムである遠方監視システムの開発です。クラウドコンピュータを使い、上下水道の現場をネットで結び、画像も送れるシステムです。このシステムを将来的には外国にも売っていこうと考えています。
 昨年の全国総会で発表した「中小企業の見地から展望する日本経済ビジョン(討議資料)」は、経営者の視点で書かれてあり、読めば自社の経営にも大変プラスになります。各同友会の2012年度の活動方針には憲章・条例運動の推進はもちろんですが、この「日本経済ビジョン」の学習もぜひ盛り込んでいただければと思います。憲章が制定された6月には、憲章推進月間(仮称)などを設定し、全国的におおいに運動を盛り上げていければ、すばらしいなと考えています。

Ⅱ 経済の見通しと同友会運動

司会 今年の経済の見通し、経営環境をどう見ていますか。

佐藤 復興需要はありますが、県の復興計画は「上から目線」で、住民の集団移転などなかなか決まらないのが現状です。震災の被害も甚大で広範囲にわたるため、県内の景気など何とも予測が立ちません。復興計画は、地域の人たちの意見を第一優先に考えるという姿勢が大事だと思います。それがないと復興のスピードが上がっていきません。

鋤柄 国の補正予算が第3次・第4次を合わせて10~20兆円になると言われていますので、GDPを押し上げる効果はあるでしょう。ただ厳しい業種もあります。中小企業も業態を転換したり、海外を視野に入れるなど、戦略の見直しを迫られる企業も多くなると思います。

広浜 各調査機関の経済見通しは2%前後の予測が多いので、それくらいと見ていますが、缶の需要そのものは長期的に毎年2%程度減少してきていますので、数量的にはプラスマイナスでゼロ程度かと考えています。リスクヘッジという面では、当社は関西方面が弱いので、岡山に新しい工場の建設を予定しています。また当社は中国にも工場があるのですが、そこからもいざという場合は製品を供給できるような体制も整えていきたいと考えています。

デフレと自社の対応

司会 デフレや「原料高製品安」の傾向がなかなか止まりませんが。

佐藤 デフレが一番恐ろしい問題です。国内の建設業は、今までの延長線上では食べていけないというのははっきりしており、転換が求められています。当社は、先ほども申し上げた健康住宅や高齢者住宅などに絞り込んで取り組んでいきたいと考えています。

鋤柄 デフレの時代には公共事業を積極的に行うべきではないかと思います。政府が中心になって国内の公共工事によるインフラ整備を進めてもらいたい。

広浜 当社の主要な素材であるブリキは、価格がこの4年で倍くらいになりましたが、価格転嫁はしっかり行うことができました。しかし、当社の取引先などでは、価格転嫁ができずに相当苦しくなってきているところもあります。優越的地位の濫用ではないかと思うような例も見受けられます。

経営者の生き様を学ぶ

司会 大変な状況の中ではありますが、今年、同友会運動をどのように進めていきたいと思いますか。

広浜 経営指針を全ての会員がつくり、それに基づく経営をする。そのような会員の割合を増やしていくことが大切だと思います。持論としては経営指針の「成文化」という言葉はあまり使いたくないと考えています。「成文化」で終わっていては意味がないからです。実践までも含めた「経営指針に基づく経営をしよう」ということを呼びかけていきたいと思います。

鋤柄 経営者の仕事とは何かを理解することが重要だと思います。そのためには同友会の全国行事などで仲間をつくっていくことです。そして会社に押しかけて、会社の中身を見せてもらうこと、そして経営者の生き様も含めて学ぶことです。同友会はそれができる会です。

佐藤 震災から会員が立ち上がれたのは、仲間が多かったからです。経営指針を創る会などを通して、同じ価値観の仲間がいたからです。被害額が億単位になった方もいますが、それでも立ち上がっています。これは人間としての生き様の問題でもあると思いますが、「何のために」ということが腹に落ちていたから立ち上がることができたのではないでしょうか。

大きな期待への自覚と誇りを持って

司会 最後に全国の会員へメッセージを。

佐藤 まだ復旧の緒についたばかりですが、今までの同友会の仲間の姿を見ていると、同友会運動は歴史の検証に耐えられる運動だと感じています。
 もっともっと強く大きくしていきたい。そのためにはまず仲間を増やすことが第一です。そしてどんな環境下でも雇用を守る強靭な企業づくりを両輪として進め、復旧・復興に参加することが同友会3つの目的の総合的実践であるという意識でがんばっていきたいと思います。

広浜 中小企業に対するマイナスイメージを払しょくする運動に取り組んでいきたいと思います。中小企業の役割の重要性を謳(うた)った憲章の精神を、自ら、自社から、同友会から日本全体に発信していきたい。それには、自分自身の会社に対する誇り、真摯な姿勢、向上心、自助努力、思いやり、目線の高さ、品格など、より高みをめざしていこうという姿勢が求められます。そういう運動が同友会ならできると思います。
 同友会には、理念や労使見解、経営指針、共同求人、社員教育、そして憲章・条例など、先輩方が築き上げてきた財産がたくさんあります。それを最大限に活用するメンバーをどんどん増やし、より社会に影響力のある団体にしていきましょう。

鋤柄 最近は、特に若い経営者がどんどん入会してくるようになり、中同協青年部連絡会も設立されることになりました。さらにこれからは、女性がもっと活躍できる組織にしていきたいと考えています。現在の女性会員の割合は1割程度ですが、ぜひ2割くらいに増やしていきたいものです。
 また全国にはまだ同友会組織がない地域があります。空白の地域に同友会の組織を新しくつくる運動も引き続き取り組んでいきたいと思います。憲章・条例の運動も、全国全ての市町村に条例をつくることをめざして、組織づくりと併(あわ)せて取り組んでいきましょう。

司会 ありがとうございました。大きな時代の転換の中、中小企業や同友会により大きな期待が寄せられていることへの自覚と誇りを持ち、企業活動や同友会運動に取り組んでいきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2012年 1月 5日号より