日タイビジネスマッチング会~現地から見えてくるタイ進出への課題

 9月3~4日、大阪同友会では、昨年に引き続き各同友会からも参加を募りタイへの視察を行いました。視察の概要とタイ進出への課題について理化工業(株)代表取締役・森嶋勲氏(大阪同友会会員)のルポを紹介します。

刺激的な2日間

 今年9月3~4日、タイのチュラロンコン大学サシン大学院にて、各同友会からの参加で「日タイビジネスマッチング会」が開催されました。プログラムは、大学の先生方の講演や進出経営者のパネルディスカッションなどの座学、日本とタイ企業の商談会、企業見学会などの実践、そして身振り手振りでの飲みニケ―ション。とても刺激的な2日間でした。

 印象に残っているのは、

(1) この30億人市場への戦略は多様化し、売れる仕組みや付加価値をどう創るか。連携による客観的でさまざまな見方が大切。
(2) 吉田松陰の『草莽崛起(そうもうこっき)』という言葉に込められた「志を持つ中小企業よ、立ち上がれ!」という思い。失敗を糧、資産にせよ。
(3) 具体的な目的を持った人たちが交われば刺激的な場になる。この1年間でタイ進出に取り組んでいる企業が数社も出てきており、今回も進出ビジョンを描いた企業がある。

 この中に身を置くことが高める秘訣(ひけつ)だと感じます。

海外へのハードルを低くしておく

 次に、当社のタイ進出について触れますと、当社は熱処理と塗装の受託加工をしています。大阪東部の八尾市にて、1969年の創業以来、ネジ、作業工具、自転車部品、自動車部品など地場産業のお客様と共存してまいりました。

 八尾市中小企業地域経済振興基本条例が2001年に制定され、同友会に入会する2004年まで条例の存在も知りませんでしたが、今思うと条例のお陰で当社も大きく変われたのだと感じます。

 条例により設置された中小企業サポートセンターとの関わりがきっかけで異業種交流会、産官学連携などでの出会いがあり、そこで教えられたのが「海外へのハードルを低くしておく」ということで、毎年視察に参加しました。

 そのような中2008年のリーマンショック。同友会で「町工場も世界経済を見ておかねば」と気付かされました。どん底からはい上がったら世の中は空洞化が進み、要求が厳しくなり、エネルギーコストが高くなり、売上は戻っても儲(もう)からない現実です。仕事が出ていっている海外を見に行こうと思いました。

タイの可能性

 初めて大洪水のタイを訪問し「これくらいではタイ人は落ち込まない」と言われ、半年後の昨年3月に再訪問。更に可能性を感じ、毎月訪問すること、半年でタイに出るか出ないかを判断することを宣言。たとえ「出ない」となったとしても、自分で見て決めることが大切だと感じたからです。

 まず、早く冷静に判断するため日本人アドバイザーと契約。「タイで仕事をさせていただくと言う気持ちがなければ必ず失敗する」という言葉に共感しました。次に現地熱処理会社をテレアポ訪問で回りました。昨年のマッチング会にも参加。状況を把握するためです。

 動いて見えてきた現状は(1)部品供給国としての地位は揺るがず(2)仕事があれば儲かるはずで(3)タイへのシフトはまだ続き(4)「出ない手はない」となりました。そして目標を(1)2015年までに拠点を設け(2)まず小さく出て(3)タイがゴールではない、としました。

 回った会社の中から3カ月後に打診があり、お互いに日系企業との取り引きを拡大する目的が一致し、合弁事業に合意しました。ここに至るまでの人との出会いは不思議なものです。

 合意から契約完了まで半年以上もかかりましたが、これもタイと日本の違いを知る機会となりました。来年1月には2名が赴任しますが、彼らは合弁相手のタイ人社員から日本人と一緒になって良かったと言われるように頑張ると言います。彼らの成長が楽しみです。

日本と海外の両軸体制が必要

 しかしタイに出て見えてくるのが日本の厳しい現実です。今、新技術や新分野での種まきが芽を出しつつありますがまだまだこれからです。

 日本の雇用を守るためには、常に海外とのレベル差を維持しながら、日本と海外の両軸体制の構築が必要だと考えています。

理化工業(株)代表取締役 森嶋 勲(大阪)

「中小企業家しんぶん」 2013年 11月 25日号より