【座談会概要】中国経済の減速と国内需要拡大、中小企業のチャンスは?

 中国経済の今とこれからをどう見るか。12月8日に大阪同友会日中経済交流会のメンバーと、植田浩史・慶応義塾大学教授(中同協企業環境研究センター副座長)が座談会を行いました。座談会の概要を紹介します。

司会/松井清充・中同協専務幹事 進出先の製造コスト、輸出や需要の状況はどのようなものでしょうか?

A氏(金属加工業、上海市に工場) 現地で仕入れる部品・材料価格が4年前から比べて3割以上上昇。為替の影響も大きいです。1ドル80円の時代はコストメリットがあったが今は違います。

B氏(プラスチック成型加工業、江蘇省・蘇州市に工場) 人件費が当初の何十倍に高騰しました。撤退を視野に入れていますが、従業員の削減や事業の売却に課題が多いです。

C氏(機械部品製造業、得意先が進出) 広東省・東莞工場への納品が減り、逆に国内向けが増えています。ものづくりの国内回帰の風潮があります。

 ただ、タブレット生産の日系企業は現地でフル生産。地域や製品により状況が異なると思います。

D氏(水道器具製造、中国から仕入) 日本から進出している大手企業は中国工場を閉鎖してベトナムやタイに移転しています。日本市場向けの工場でその傾向が顕著です。

E氏(自動車部品加工業) 得意先がタイ、インドネシア、フィリピンに進出。中には3年で黒字にすることをめざして進出したもののうまくいかず、撤退も難しく、現地に張りついている企業もあります。

F氏(OA機器組み立て業) 広東省・東莞市に進出しているOA機器関連企業はベトナムに移転を計画。日本国内は人件費が高く完全自動化でないと採算がとれないと言われています。

G氏(表面処理鋼材製造業) 韓国とタイに進出しています。半導体関連は中国企業がキャッチアップして韓国を逆転するかという段階。韓国にいると中国産業の脅威を非常に感じます。

植田浩史氏(慶應義塾大学教授・中同協企業環境研究センター副座長) 中国経済の成長率は下がっているが成長しているし、国内市場が膨大なのも事実。山が崩れかかっていると見るのか、伸びは低まっているが山はまだあると見るか。そこは分けて考える必要があります。

日系企業でも儲かっている企業とそうでない企業の格差が出ています。マイナス影響のみにとらわれないことが大切です。

生産拠点の撤退はまだ部分的な動き

中国の工場

B氏 技術力の競争についても中国企業が日系企業に追いつくのは時間の問題と感じます。技術力向上で対抗しても“いたちごっこ”になってしまう。

A氏 中国に進出しているのは、原材料やあらゆるものが揃うからです。加工委託先を探せば必ず目的の企業が出てきます。他の国ではそうはいきません。日本ではまだまだ高いものを安価に中国で探すことになると思います。

植田氏 中国では原材料も、部品もそろう環境があります。高いものから安いものまでとても幅が広い。いくらで作りたいといったときに、それに合わせた安い材料が種類も豊富に入手できます。

 中国から他の国に生産拠点を移す動きもありますが、大きな流れにはならないと思います。

日本のような「バブル崩壊」は考えにくい

司会 中国自体が巨大な市場です。今後の日本への影響をどう見ていますか?

C氏 中国人は「バブル崩壊はない」と言います。政府が拡大主義をとっているかぎり崩壊しないのではないでしょうか。

 ただし、拡大主義に伴う政治的軋轢には今後警戒が必要です。

A氏 中国のマンション価格は浙江省・温州市などは下がっていますが、上海市では上昇が続いています。内陸部にまだ何億人もの潜在需要があり裾野がとても広いです。

植田氏 中国の銀行で不良債権がたまっている状況は20年くらい前から存在していました。問題が起きないのは成長が続いたからで、成長率が低下すると問題の表面化がありえます。しかしこれは誰しも分かっていることで政策的な対応が当然視されています。日本の「バブル崩壊」のときのような形で一気に爆発するということは考えにくいです。大問題になる前に少し金融市場を引きしめると予想されます。

自社の立ち位置と関わり方が問われる

F氏 国内中小企業で、日系企業から海外メーカーとの直接取引に転換して伸びているところがあります。また、中国人が直接に買いに来るというケースも増えています。安く中国でつくるもの、高くても日本でつくるものというすみ分けが進んでいきます。

 それは日本全国や地域全体というよりは、個々の企業のつながりによって異なると思います。これまでの概念にとらわれないことが大切です。

G氏 タイでは工業団地の中に中国銀行のATMが設置されています。中国は投資される側から投資する側に変化しているのです。貿易自由化が進むと、国境を越えた複雑なサプライチェーンが生まれるでしょう。

 中国がどうか、日本がどうかとかいう次元ではなく、グローバルに人・モノ・金が動く時代です。その中で自社の立ち位置を考えることが求められます。

植田氏 中国の世界的な通信機器メーカーの日本法人では、日本での販売額よりも購買額の方が大きい。日本で買って全世界の通信設備に供給するために、中国企業が日本で調達することが増えています。こうした動きにも注目すべきです。

H氏 当社は中国に売りたい日本企業向けの営業代行を請け負っています。中国で売りたいという企業は増えています。それは消費財だけでなく機械も需要があります。地下鉄インフラもすごい。天津で3路線、北京で5路線を同時に建設中です。内陸の湖北省・武漢市、重慶市も設備投資の嵐。日本企業も関わり方を変えるとチャンスがあります。

中国経済の存在感と中小企業のチャンス

縫製工業

植田氏 今回の懇談会のまとめとして3点。

 1つ目に、中国の現状を客観的に見ることが大事です。

 『現代中国の産業集積~「世界の工場」 とボトムアップ型経済発展』(伊藤亜聖著、名古屋大学出版会)という書籍で次のようなデータが紹介されています。繊維製品の輸出額(世界全体)に占める中国のシェアは2000年に12・3%だったのが2010年には28・9%となり、2014年は32・9%とさらに伸びています。この間の賃金がほぼ倍の水準になったが、依然として労働集約型の製品が中国でつくられ世界に輸出されています。この存在感は大きい。

 中国経済のマイナス影響だけでなくプラス影響を見ることも重要です。

 2つ目に、中国を含めて国際的な取引が広がり、「サプライチェーン」が複雑化しています。

 重要なのはモノの流れの国際化が進むなかで、どこで価値が形成されているのかという「バリューチェーン」の視点です。どの段階で付加価値をつけるのか、戦略的に考えて自社と中国を位置づけるべきです。

 3つ目に、「バブル経済の崩壊」がいわれるが、武漢や重慶のように経済拡大を続ける地域もあります。状況は地域や産業によって異なります。

 中国経済が全体として「バブル崩壊」するということは考えにくいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2016年 2月 5日号より