【エネルギーシフト(ヴェンデ)岩手の挑戦】[1]

 岩手同友会の第4回欧州視察が、昨年10月7日~16日の日程でドイツ、スイスの2カ国で行われました。その内容をシリーズで紹介します。

「何が共通点なのか」を見つめた4回目の視察

 「違いはおのずと見えてくる。共通のものは何か、それはどうしてなのか、よく考える視察にしてほしい」。スイス・チューリッヒ空港からドイツのフライブルクに向かうバスの中で過去3回案内してもらい、今回も案内人の1人、日独森林環境コンサルタントの池田憲昭氏から開口一番、問題提起がありました。

 「ドイツはすごい、ここが違う」「行った人にしかわからない」と帰国して興奮気味に違いを熱く語るほど、初めてエネルギーシフトに触れた人の気持ちは離れていきます。確かに私たちのこれまでの視察では、欧州との違いに目が行きがちで、日本の現状と比較したとき、なかなか企業での実践が進まなかった過去がありました。4回という回数を重ねる中で初めて、何が共通点なのかを見つめた視察でもありました。それは「自分が何に取り組むか、自社が何を実践するか」を明確にすることでもありました。

広がる企業での実践

 岩手同友会では2014年2月にエネルギーシフト研究会を立ち上げ、翌年から欧州視察を開催、その後昨年10月の第4回目までで、のべ55名が欧州の地に立ちました。これまで北海道、鹿児島、そして今回は宮崎、熊本、新潟の各同友会からも参加があり、エネルギーシフト(ヴェンデ)の実践の輪が各地に大きく広がりつつあります。

 なかでも岩手同友会の欧州視察の特長は、社長が視察に参加した後、翌年は社員が次々に参加していることです。さらに今回は岩手大学の学生3人が加わり、地域全体で取り組むエネルギーシフトの実践が形になってきました。

 研究会の立ち上げから4年。エネルギーシフト研究会を通じて欧州から帰ったメンバーそれぞれが企業での取り組みを進め、ドライビングスクールの新築(平泉ドライビングスクール・(株)高田自動車学校)をはじめ、社員出資で取り組むエネルギー創出事業((株)タミー、東日本機電開発(株))、一般家屋の断熱改修(岩手日化サービス(株)、(有)くらし建築工房、SS建築デザイン室(有)、住工房森の音、(有)美建工業、(株)理創生活ほか)や自宅のエネルギー自立(信幸プロテック(株))、工場の省エネ見える化(前野モータース)、岩手初の断熱集合住宅の建築賃貸((株)アート不動産)、農業分野でのエネルギーシフトへの挑戦(ふじむら農園、(有)猿子園芸)など次々に広がっています。

市民の取り組みが社会を変える

 3年前に初めて行った視察では、見たもの触れたものすべてがただただ、驚嘆の連続でした。第2回目は中小企業の付加価値創造と地域での新たな仕事づくり、第3回目の視察では目標とする姿を掲げ、そのために今何をするか、という演(えん)繹(えき)的な考え方の大切さを学びました。それは「2050年に岩手でエネルギーと食料の自立を目ざす」という旗を地域に示すことになりました。

 そして第4回目、今回初めて意識した欧州との共通点。ドイツではエネルギーヴェンデ(大転換)、日本ではエネルギーシフトと訳されるこの言葉の根底に、市民運動による社会変革に挑む姿が見えてきました。

岩手 第4回欧州・ドイツ・スイス視察

(2017年10月7日(土)~15日(日))
10月7日 スイス・チューリッヒ
10月8日 スイス 黒い森 持続可能な森林づくり
10月9日 ドイツ・エネルギー自立村フライアムト、ヴォーバン住宅地視察
10月10日 ドイツ・ヴァインガルテン地区視察/ドイツ・フライブルク市で村上敦氏、池田氏より報告
10月11日 ドイツ・ラール市近郊ハーブ生産者団体訪問/オーガニック食材の地域流通会社リーグリン社訪問
10月12日 スイス・バーゼル市の造園会社アルボン・ガルテンバウ社訪問/ランゲンタール市のエネルギー自給型木造会社ヘクター・エッガー社訪問
10月13日 スイス・メルヒナウ村の農家ドゥッペンターラー家の取り組み/太陽熱温水器でハーブ乾燥設備を運用するバウムガルトナー家の取り組み/ワークショップ
10月14日 自由行動

「中小企業家しんぶん」 2018年 2月 5日号より