ある信用金庫の価値創造の取り組み~見返りを求めず失敗もせず着実に地域再生

 東京で行われたある研究会で、秋山和夫さん(帯広信用金庫常務執行役員・地域経済振興部長)に会い、話を伺うことができました。

 秋山さんは元・日本銀行帯広事務所所長。当時の帯広信金理事長が2009年に地域経済振興部を新設し、部長に秋山さんをヘッドハンティングしました。地元からは地域経済の現状を分析し、具体的な解決方法を示し、講じてくれる「地域シンクタンク」の設立を待望する声が強かったそうですが、その期待に十分応える成果を生み出してきました。陣容は、3名からスタートし、現在は10名で、売れる商品づくりやもうかる商品づくり、販路の開拓・拡大、人材の育成、農商工間の連携システムづくりなどに取り組んでいます。

 驚かされる信条に「地域貢献8ヶ条」があり、特にその7に「地域の全ての人々・事業先を対象とし、見返りは求めない」というものがあります。「見返りは求めない」とは、帯広信金が十勝で預金シェアが5割を超える実績がものを言っているのかもしれません。

 地域経済振興部では次の事業に取り組んでいます。例えば、「とかち酒文化再現プロジェクト」。日本の食糧供給基地とも称される十勝で、清酒づくりは途絶えていました。これを復活させ、ネーミングを全国公募し、「十勝晴れ」に決定。米の不適作地を評された十勝で、酒米づくりは成功し、農業の多様化を進めることができました。純米吟醸「十勝晴れ」は、全日本国際酒類振興会などで各種受賞をするなど関係者に大きな自信が生み出されています。

 また、「ナチュラルチーズ共同熟成庫」は、国内生産量の6割を占める十勝のナチュラルチーズを共通基準の定めた原料を調達し、共同熟成庫で熟成を繰り返すというもの。2017年には新たな共同熟成庫を完成し、「十勝ラクレットモールウォッシュ」(直径26センチメートル、熟成期間3カ月)を年間2万個熟成できます。

 このほか、「真冬のマンゴーづくりプロジェクト」や落花生のブランド戦略など取り組んでいますが、農業の発展性や持続性を高めるだけでなく、食産業および周辺産業の強化にも寄与し、長期的には地域再生の大きな力になると言います。

 地域経済振興部の取り組む事業に今のところ失敗はないとのこと。絶対失敗させられないとの強い意志を持って臨むからと言います。

 金融機関に欠かせぬ視点として、第1に長期的な視点に立ち、包括的・体系的、継続的な支援をシームレスな実現に向けて自ら汗をかくこと。第2に、自らのリスク許容度を高め、地域内資金循環・再投資の好循環を生み出すこと。第3に、成功事例の積み上げとやる気のあるパートナーの選定をすることだそうです。

 ちなみに十勝は、10年前に帯広市中小企業振興基本条例を制定した地域振興の活発なところであり、北海道同友会とかち支部のホームグランドでもあります。とかち支部の組織力と帯広信金のパートナーシップで、十勝の将来への発展が見通せる気がしました。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 2月 15日号より