【エネルギーシフト(ヴェンデ)岩手の挑戦】3

 岩手同友会が行った第4回欧州視察についてのシリーズ第3回を紹介します。

エネルギーシフトはどの企業でも実践できる

 採用と社員教育が企業の歩んできた歴史と理念、ビジョンをもとに取り組まれるのは、世界共通です。スイス・バーゼル郊外のアラボー造園会社は、社員49名の中小企業。私たちが訪れた時、創業者である現会長と後継社長、取締役の皆さんが迎えてくれました。

 欧州のどの企業を訪問しても共通なのは、会社がどのような目的で創業され、どんな歴史をたどってきたか、丁寧に話してくれることです。今回も社長自ら話してくれました。

 1951年に設立された同社は造園、高品質な自然石の加工を主に手がけています。なかでも社内に「造園における環境委員会」を設け、共同利用でのマイカー通勤や電動自転車での現場管理、すべてのせん定した枝のチップ化、ソーラーパネルやヒートポンプを活用した社屋、社用車のエネルギー自立など、社員が全社的に主体的に取り組む環境に優しいさまざまな実践は、2015年にバーゼル市のエネルギー公社主催の環境表彰で、最も優秀な企業賞を受けました。

教育の方法まで学べる研修制度

 その根底には、ドイツのマイスター制度に代表される職人教育に関する仕組みがあり、社会的に確立されています。スイスでも同様です。最初は基本的に3年間の「見習い生」として入社します。そしてデュアルシステムと言われる民間企業と公の機関、社会全体で技術・技能を教育する仕組みになっており、(1)実務教育(全体の6~7割)、(2)実務外の職業教育(全体の2~3割)、(3)専門機関教育(1割)の3本柱から構成されます。3年が経過すると資格試験を受験し、合格すれば国家資格、ガーデナーとして認定されることになります。

 専門機関では、心理学や教育学、そして話し方や伝えたいことを明確に理論立てて伝える技術、発声法、そして大切なことは繰り返し伝えるなど、人に教えるための技術もしっかり学びます。この講座を経て認定された人たちが、見習い生を育てていくことになります。

世界に共通する「人を生かす経営」

 同社に到着しバスを降り最初に目にしたのは、清楚に整った絵画のような日本庭園でした。「前日夜中までかかって準備した」その作品は、明らかに並外れた優れた技術で、言葉はなくとも私たちへの敬意と迎える気持ちが伝わってくるものでした。

 今回の視察の中でも最も楽しみにしていた佐藤康之氏((株)仙北造園代表取締役)からは、アラボー社社長に社員の交換研修の提案がありました。

 「実は私たちは『人を生かす経営』に取り組んでいる。私たちもこうした教育制度に学びたいし、スイスの皆さんにとっては日本庭園を学ぶ場になる。お互いに若手が学び合える制度を作りませんか」

 「ぜひやりましょう」。共に笑顔でがっちりと握手する姿は、9000キロメートルの距離をまったく感じさせないものでした。

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 5日号より