中小企業家の社会変革運動として

【エネルギーシフト(ヴェンデ)岩手の挑戦】6

 岩手同友会が行った第4回欧州視察についてのシリーズ最終回を紹介します。

1000年に1度は本当か

 「1000年に1度の災害と言うが本当だろうか。文献を見るとこの地域は約30年ごとに大きな津波で壊滅的な被害を受けてきた。また人口減による地域の危機が叫ばれているが、明治時代の日本の総人口は3500万人ほど。むしろたった100年ほどで急激に人口増大が起きたと考えたら、私たちの取り組み方そのものが変わるのではないか」

 東日本大震災発生から数カ月後、あのがれきの中で、気仙支部の当時の田村滿支部長((株)高田自動車学校代表取締役)は、こう話していました。

地域の資源を生かし切るという視点

 大船渡市にある木楽創研(株)(熊谷秀明代表取締役)では、気仙の地域材を100%使用した木骨ハウスの工法特許を取得、当初は農業用ハウスとして販売をはじめましたが、現在では簡易畜舎への応用も進み、全国で活用されはじめました。現在欧州での国際特許取得へ向けた準備が進んでいます。

 陸前高田市には震災後、全国から若い魅力的な人材が集っています。「地元で愛されてきた米崎りんごの木が380本あるが、後継者がおらず切るしかない」と聞いたその中の1人が、この地で米崎りんごを守ることに人生をかけると決意し創業するなど、7年が経過した今、県内のどの地域よりも「地域にある資源を地域の企業がどう活用し地域内で循環させ、地域外から『外貨』を獲得するか」が日常の話題の中心になっています。

中小企業にしかできない仕事

 太陽光や風力、地中熱などの再生可能エネルギーも、そして先祖代々その地域で脈々と受け継がれてきた山林も自然の恩恵を受けた、その地域固有の資源です。その魅力を域内で丁寧に紡ぎ、生かすことが私たち中小企業にしかできない仕事と考えたとき、行動は自ずと変わってきます。

 さらには行政や公の機関、そして地域に住む人たちと、どう連携していくか。私たちがその循環を生み出す中心に立ったとき、どの地域でもエネルギーと食料の自立と地域の精神的な自立の両方の実現が可能になります。こうした視点が全国各地で網の目のように広がったとき、次世代につなぐ持続可能な日本の姿が見えてくるように思います。

地域の担い手としての責任

 岩手同友会の欧州視察では毎回最終日に、震災からこれまでの自分たちの実践を振り返り、こうした議論を全員でじっくりと話し合う場を設けます。

 必ず話題に上るのは日常日本で使う「エネシフ」という言葉には、どうしても違和感を感じるということです。「エネルギーシフト(ヴェンデ)は、環境経営というくくりだけではない、CO2の削減だけでもない。地域の担い手として自覚した中小企業が主体的に取り組む社会変革運動にならなければ」。そんなことを今回の視察でも語り合ってきました。

 誰もが納得できる共通の言葉で語り合う時期に来ているのではないか。4年の間積み重ねてきて、感じることです。昨年11月に行われた第4回欧州視察のテーマ、「欧州と日本に共通するものは何か」そして「中小企業家の社会変革運動としてのエネルギーシフト(ヴェンデ)」。この言葉の真の意味をもう1度問いかけてみる時期に来ていると思います。

(完)

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2018年 4月 15日号より