事業継承は自社の強みを明確化し、経営を再点検する契機

2018年1~3月期 同友会景況調査(DOR)オプション調査「事業継承問題」について(後編)

 6月15日号の前編に続き、2018年1~3月期の同友会景況調査(DOR)のオプション設問「事業承継」問題についての調査結果を報告します。今回は業種による傾向を中心にまとめました。なお、本調査の回答数は938件、業種別では、建設業169社、製造業312社、流通・商業274社、サービス業175社、その他6社(業種未回答企業を除く)となっています。

経験年数、年齢

 経営者の経験年数を業種別に傾向をみると、10年未満はサービス業が多く(32・6%)、10年~20年未満は製造業(29・8%)が、20年~30年未満は流通・商業(20・8%)とサービス業(20・0%)がほぼ同じ割合という結果になりました。30年以上になると建設業が29・6%と最も高いことが分かりました。(図1)

 代表取締役の年齢では、ボリュームゾーンの60~70歳未満はどの業種も32~34%ですが、40~50歳未満は建設業が21・9%(全体19・6%)、50~60歳未満は流通商業が30・7%(全体28・6%)、70歳以上はサービス業が16・0%(全体12・6%)と、それぞれの年代で業種による傾向が出ています。(図2)

後継者の決定状況

 業種別の後継者決定状況では、「すでに決まっている」と回答したのは建設業と流通・商業ではほぼ40%であったのに対して、製造業(49・0%)、サービス業(46・5%)は5ポイント以上高い割合となりました。「決める時期だが決まっていない」は製造業と流通・商業が10%台後半だったのに対して、建設業は23・8%、サービス業22・4%と2割を超える回答となりました。「まだ決める時期でない」はサービス業だけが27・1%と20%台で低く、他業種は30%強でした。(図3)

 どのような人が後継者になっているかをみると、「子ども」と回答した割合は製造業65・1%、流通・商業63・6%、建設業60・8%、サービス業54・9%でした。サービス業は唯一、50%台で、最も多い製造業とは10ポイント以上の開きがあります。また、「子ども以外の身内」も「子ども」と同様の傾向がありました。一方で、サービス業は「役員・従業員」と回答する割合が43・9%と特に高く、全体では28・9%、最も低い割合の製造業の22・5%とは2倍近くの差となっています。(図4)

後継者が決まっていない理由

 「適任者がいない」の回答割合が高かったのはサービス業(44・9%)と建設業(42・4%)でした。逆に製造業は31・5%と10ポイントも低い割合でした。一方で製造業は「適応者が応じない」、「経営者が若いため」の割合がほかの業種よりも高くなっています。前出の代表取締役の経験年数や年齢の傾向とも合わせて考えてみると、製造業では設備の維持・更新に伴う投資額も大きいことから、比較的早い時期から事業承継の準備を進めていることが伺えます。(図5)

想定される問題

 「想定される問題」としては、「後継者の力量」「事業の将来性」がどの業種も過半数を超えています。しかし、ベテラン経営者が多く、後継者決定状況が他業種よりも厳しい傾向にある建設業に特徴的な回答の傾向が見られました。すなわち、「候補者の不在」(22・4%、全体17・2%)、「個人資産の取り扱い」(17・3%、全体13・8%)、「社員の不平・不満」(17・3%、全体12・8%)、「先代の影響力」(14・7%、全体9・7%)がほかの業種と比べて高く、建設業においては解決すべき課題が多いことも事業承継の難しさの背景となっているようです。(図6)

承継準備の取り組み

 「承継準備の取り組み」としては、全体では、「後継者育成」「後継者を支える人材の育成」「事業承継の策定・実施」「自社株式の後継者への移転方法への対応」「債務・借金の圧縮」「取引先との関係維持」「人脈や技術などの引継ぎ準備」「相続税等事業承継に関連した対応」の順となっています。

 業種ごとの特徴としては、「事業承継計画の策定・実施」が建設業で34・4%(全体24・4%)と高く、「後継者育成」はサービス業で57・3%(全体50・5%)、「債務・借金の圧縮」は製造業24・5%(全体18・0%)が全体の割合よりそれぞれ5ポイント高と特徴的な数字が出ていました。(図7)

 事業承継は企業経営の集大成とも言われるほど重要な仕事です。企業によって業種や企業規模、社風、歴史はまったく異なりますが、築きあげてきた企業の強みや課題が事業承継を通して浮き彫りになり、企業経営の再点検をするきっかけになるという意味で、共通した通過点であるといえます。

 同友会では各企業における「経営指針を中心とした全社一丸の経営の実践」をめざしています。この取り組みは事業承継問題をも含めた総合的な経営のあり方を追求する道ともいえます。日々の経営のなかで事業承継を視野に入れた取り組みの輪を広げ、地域経済を支える企業の土台を強固にしていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2018年 7月 5日号より