理念経営で海外進出 (株)イベント21 代表取締役 中野 愛一郎氏(奈良)

【黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る 海外戦略】

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が海外展開する会員企業を取材し紹介する「海外戦略」。第8回は(株)イベント21(中野愛一郎代表取締役、奈良同友会会員)に話を聞きました。

 (株)イベント21は奈良県香芝市に本社のあるイベント会社(社員162名)で、イベント企画・運営、イベント用品レンタル、イベント会場の設営、看板制作及び販売などを行っています。営業地域は日本全国、海外にわたっています。顧客は「アミューズメント・レジャー」「ファッション」「自動車」「広告・出版・マスコミ」等々、多分野の企業や団体で、結婚式の2次会用のイベントなど個人顧客の要望にも応じています。社長の中野愛一郎さんは開口一番、昨日は234件の見積もり依頼があり、4件は海外からとおっしゃいましたが、年間4万件以上の問い合わせがあり、新規の見積もり依頼は10年連続で対前年20%以上です。売上は2006年度1億円強に対し2018年度見込み16億円と急伸中です。

 中野さんは26歳になった2007年に創業者である父親の突然の死去で取締役に、10年4月に代表取締役社長に就任しました。経営を引き継ぐのは嫌だったそうです。同社ホームページには取締役就任前の職業が「旅人」と記されていますが、35カ国を1人旅し、発展途上国の貧困を目の当たりにしました。将来は世界の中心であるニューヨークに住み、世界に貢献できる仕事をしたいと思っていました。しかし、父親の人生そのものでもあった企業も大事にしたい。では、この企業をニューヨークに進出させよう、そうすれば自分の夢もかなう。

 最初にやったのは、16年連続債務超過だった企業の再建。言い値で買っていた資材の仕入れ先を変えるなどして、経費を50・4%削減し、黒字転換させました。社員の給料もあげ、年間休日を40日から80日にしました。次に、売上を1社に90%依存し、価格もたたかれ放題だった従属経営からの脱却。この手段になったのが、今や経営の支柱となっているウェブによる情報発信で、猛勉強しました。その甲斐あって08年4月ウェブからイベント案件を初受注し、とてもうれしかったそうです。09年10月にはウェブからの受注に追いつかなくなり、社員の一般採用を開始するほどでした。

 社員が20名になった10年4月、同社のもう1つの柱である経営理念「you happy, we happy あなたが幸せなら私達も幸せ」を発表しました。イベントを通じ世界を幸せにする。「旅人」時代に抱いた中野さんの思いの追求です。この理念に共感する若者が集まり、社員の平均年齢は26・5歳。先輩のバックアップのもと、新人にも責任を持たせるシステムで人が育ち、ほかのイベント会社が特定の領域に特化しているのに対し、どんなイベントも手がけられるようになりました。

 海外との取引額はまだ2000万円程度ですが当初から海外に目を向け、国内に支店を出す前にホーチミン市に支店を開設しました(国内に現在5支店、間もなく2新支店開設)。海外との取引はインバウンド事業(海外企業の日本でのイベント開催支援)、アウトバウンド事業(海外でのイベント用に鏡開きの道具など日本文化に満ちたものを物販)、コネクト事業(例えばベトナムのアオザイショーのパフォーマーを日本でやりたい人につなぐ)があります。今、海外事業が大きく飛躍しそうです。夢だったニューヨーク進出です。イベント21のホームページを見た米国人が息子に紹介しました。オハイオ州立大学を卒業し、日本に留学経験もある若者です。スカイプを通して中野さんたちと面談。アメリカでも経営理念を掲げる企業はあるが、言葉だけが多い。面談を通じ、この企業の理念は思った以上に本物だと感じたそうです。私が人生のビジョンは何ですかと尋ねたところ、世界のためにハッピーな出会いをつなげることだと答えてくれました。顧客の満足度を高めるのが楽しみだそうです。会社の理念が自分の理念にもなっています。2021年にニューヨーク支店の開設が決定しています。彼はきっと大活躍するでしょう。

設立:1991年
資本金:1,000万円
従業員数:162名
事業内容:イベント用品レンタル、イベント会場の設営・装飾・施工、イベント企画・運営・手配、看板制作・イベント用品販売、日本商品の海外販売、WEB広告代理店業務
URL:https://event21.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2018年 11月 5日号より