総括・リーマン・ショックから10年~大不況はどう経済を変えたか

 2008年9月、米国の投資銀行、リーマン・ブラザーズ社が経営破綻し、日米欧、新興国などは大恐慌以来の世界経済危機に陥ることになりました。そのリーマン・ショックから10年、日本と世界の経済はどう変わったでしょうか。

 第1に、景気回復のために各国は財政支出を急増させましたが、先進7カ国(G7)の中で、日本の財政悪化がこの10年で最も進みました。ほかの国は危機から平常時に戻り支出を抑えますが、日本だけが予算を膨脹させ続けています。

 日銀元理事の早川英男氏は「日本より余力がある国でさえ、次の景気後退の備えに危機感が強い。日本は、普通の景気後退にさえ耐えられない可能性がある」と指摘します(東京新聞、2018年9月14日)。

 第2に、リーマン・ショック以来、10年経っても、日本企業の売上高はリーマン・ショック前の水準に達していないことです。

 東京商工リサーチが保有する企業データベースを活用し、リーマン・ショック前の2007年度から直近の2017年度まで、11期連続で単体の業績比較が可能な26万5000余社を抽出し、分析から判明しました(東京商工リサーチ「『リーマン・ショック後の企業業績』調査」、2018年9月13日)。リーマン・ショック後に、日本経済は縮小均衡に陥ったと言えます。

 では、世界経済はどうでしょうか。

 第3は、世界経済の成長率が低下したことです。リーマン・ショック前の2000~2007年と、リーマン・ショック後の2010~2017年の年平均成長率を比較すると、先進国(2.3%→1.7%)と新興国(6.6%→4.9%)のいずれも4分の3ほどに低下しています。このように、リーマン・ショックが世界経済に与えた痕跡も大きかったのです。

 第4は、世界経済の勢力図が塗り変わったことです。リーマン・ショック前の2007年の名目GDPシェアと直近の2017年を比較すると、日米欧のシェアは63.3%から52.1%へと11%ポイント低下しましたが、アジア新興国(除く日本)のシェアは14.0%から25.4%へと11%ポイント上昇しました。

 第5は、アジア新興国が経済規模を拡大しただけでなく、自立性も強めたことです。

 2010年代に入り、消費意欲が旺盛な中間層が拡大しました。ただ、1人当たり所得水準がまだ低いことを考えれば、アジア新興国の消費市場はさらに拡大し、内需主導型の成長パターンが一段と明確になっていくでしょう(枩村秀樹、ビューポイント・2018-009、日本総研)。

 世界は、リーマン・ショックを乗り越えて安心できる経済基盤を取り戻したとは言えません。10年近くにわたる金融緩和によるモルヒネ効果に、たんに感覚が麻痺しているだけなのかもしれません。リーマン・ショックの「置き土産」として、世界経済は債務が膨脹、所得はますます格差が拡大し、富の偏在という潜在的リスクを抱えています。

 いま「危機」という言葉を改めて考えました。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 12月 15日号より