【黒瀬先生が行く海外戦略 番外編】バングラデシュ報告(下)成功日系企業の特徴 嘉悦大学大学院ビジネス創造研究学科教授 黒瀬 直宏氏

 昨年11月3日~10日、NPO法人「アジア中小企業協力機構」(黒瀬直宏・理事長)のメンバーでバングラデシュの人材育成機関と中小企業を訪問しました。1月15日号に引き続き、紹介します。

 前回、バングラデシュでは大企業の勃興が見られることをお伝えしました。今回は日系企業の状況についてです。ジェトロダッカ事務所によると、進出日本企業数は2008年70社から2018年269社へ増加し、今後一層の増加が見込まれます(表)。今回、日系企業2社を訪問しました。

 KOJIMA LYRIC GARMENTS LTD.(ダッカ、従業員数1500人、2010年設立)は、日本の(株)小島衣料と現地の縫製企業との合弁企業です。(株)小島衣料は全量をバングラデシュ、ミャンマー、フィリピン、中国で生産しています。バングラデシュにおけるもう1工場とあわせ、55~60%を同国で生産、当初、全量を生産していた中国での生産は15%に縮小しています。この企業にとっては〈中国プラスワン〉の時代は終わり、海外生産は中国以外に向かっています。変化の速さを感じます。

 KOJIMA は日本の大手小売りやアパレルメーカーから受託生産しています。日本向けはロットが小さく、他の企業はロット5000~6000が標準ですが、同社は300まで受けることにしています。ロットの切り替え時間を短縮し、生産効率を上げています。縫製ラインを24ライン編成し、同時に多種の服を作れるようにしています。バングラデシュでは日本向け商品に関してはファストファッション向け軽衣料以外を作るのが難しいですが、同社はフォーマルウエアなどの重衣料やスポーツ衣料も作れます。

 生地は顧客指定で90%は輸入、当地での調達は糸、袋、ファスナーなどに限られ、2次加工などの外注も5%程度です。外注が少ないのは管理が難しいためとのことです。

 バングラデシュの一般教育のレベルは低いため、管理者人材が不足していますが、同社では基本的な社訓に沿った指導や、基本的な技術指導はナショナルスタッフが行えます。バングラデシュの縫製業の離職率は月7%ですが、3%に抑えられているのも注目されます。

 A社(チッタゴン、従業員920人、1997年設立)は、独自の技術に基づき、自動販売機用のLEDを使った部品などを製作しています。日本の親会社は生産の90%が海外で、一番多いのは中国です。中国は人件費が高くなり、自動化が圧倒的に進んでいますが、バングラデシュでは人件費はまだ安いため自動化投資をおさえています。ただ、人件費は上昇中ですから、今後どうするか悩むところのようです。素材の99%が輸入で主に中国から、金型も中国から輸入しています。梱包材だけが現地調達です。

 従業員の80%が女性で、手先は器用、技能の蓄積が可能です。現場のセクションチーフまでがナショナルスタッフで、このレベルまでは経営目標を共有化できています。離職率は年5%と大変低いのが注目されます。この1年は毎月1回誕生会とスペシャルランチの会を行っていますが、毎月きちんと給料を払うことが大事で、バングラデシュでは大きな企業でもそれができないとのことです。同社が立地している輸出加工区では毎年10%ずつ賃金をあげるのがルールで、これがつらいとのことです。

 両社は海外展開に成功している例として貴重です。従業員の定着率がよく、現場の中間管理職の形成も順調なこと、KOJIMAの場合は多品種生産や中級品の生産など現地他企業にない特色を発揮し、A社も技術的独自性を持つ製品を生産していること、が成功の要因です。日本企業にとってバングラデシュの豊富な低賃金労働者が魅力的なことは確かですが、低賃金は他の企業にとっても同じ条件なので、それだけに頼っていたら競争優位に立てません。しっかりした管理技術や生産技術が必要なことを両社は示しています。

 日本の中小企業にとって、バングラデシュの国内市場目あての進出は、素材等に高い輸入関税がかかるため、現実的ではありません。しかし、労働人材の潜在能力は高く、日本品質の達成は可能です。バングラデシュで輸出向け生産を行うことは有望だと思いました。

「中小企業家しんぶん」 2019年 2月 5日号より