生活と観光のバランスを考える~オーバーツーリーズムにどう対処するか

 観光は地域を支える重要な産業です。

 近年、輸送費の低コスト化やLCC(格安航空会社)の普及、ビザの緩和等を含む旅行の円滑化、特に発展途上国で拡大する中間層等の状況が観光産業の成長を加速しています。世界の海外旅行者数は2017年には13億人を超えるまでになりました。

 観光産業は2017年には世界のGDPの約10%を占め、全雇用の約10%を生み出しており、この勢いは止まらず、2030年まで年率約3.3%の成長が見込まれています。

 日本でもインバウンド(訪日外国人旅行客)は3,000万人を超え、2020年のオリンピック時に4,000万人にするのが目標です。

 このように、観光産業が順調な成長を見せるなか、わが国でも京都や鎌倉などにおいて、行き過ぎた観光地化(オーバーツーリズム)の問題が近ごろ注目を集めつつあります。社会問題としてオーバーツーリズムが認知され始めているのです。日本の至るところで観光公害とも言える状況が生じることが予見されます。

 ここではオーバーツーリズムを「市民生活の質および訪問客の体験の質に過度に負の影響を与えてしまう観光のありよう」と定義しましょう(阿部大輔著『観光文化』「オーバーツーリズムに苦悩する国際観光都市」)。

 観光客・地域住民の双方が観光の進展に何らかの不満を抱くような状況こそが、古くて新しい政策課題となりつつあります 。ヨーロッパではデモを含むさまざまな反対運動が起きており、「ヴェネツィアはディズニーランドではない」という標語が象徴的です。

 そんな中、わが国を代表する温泉地、由布院は住民主体のまちづくりを通じて成長してきた観光地であります。人口1万人の町に年間380万人の観光客が来訪しており、1日当たりの交流人口と定住人口がほぼ同じ。住んでよし、訪れてよしを掲げ、生活と観光の共存をはかる地域として有名です。

 由布院のまちづくりのリーダー中谷健太郎氏(亀の井別荘相談役、第33回全研第15分科会報告者・2003年)は、2000年代前半に、観光客に関して「『2%ずつ減少を見込み、5年で10%減』という目標を立ててコントロールできないか」と提唱していたようです。生活と観光の均衡を図るための意識が芽生えていたことを明らかにした、地域が自律的な管理を行っていく上で特筆すべきことでした。

 ただ、「観光地というお客様に来ていただいていて生活が成り立っている町が、お客様の数を制限するという言い方は到底できない」という意見も正論です。オーバーツーリズムが問題現象だけの発信にとどまると、地域のブランド力を毀損することになりかねません。このような意見も含め、地域における多様な関係主体、地域住民や観光客双方の折りあいをつけて管理していくことが大切です 。

 もちろん、由布院のように小さな町(地域)も日本には多い。一緒に暮らす“生き方”“出会い”の場所のイメージの共有が旅に参加する人にも求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 2月 15日号より