岩手同友会エネルギーシフト研究会 第5回欧州視察連載(3)

 10月6日~15日に岩手同友会エネルギーシフト研究会が主催する第5回欧州視察について紹介する連載第3回。参加した石頭氏(岩手同友会)と島原氏(宮崎同友会)の感想レポートを紹介します。

「働くこと、生きること」に向きあう意志を

(株)幸呼来Japan 代表取締役 石頭 悦 (岩手)

 ドイツのフライブルク郊外のヒンメルライヒにある、歴史ある旧家を利用したホテルを運営する会社「ハウス&ガーデン」でのお話が印象に残りました。

 報告したアルブレヒト氏はプロテスタントの「人々が尊厳ある暮らしをおくる」という考えに基づき、移民とダウン症の方を雇用し、景観土木の会社を立ち上げました。しかし、岩手と同じく冬に冷え込むヒンメルライヒでは冬場の仕事がなく、年間を通して雇用を続けるためにホテルを経営し、障害者雇用をしていきました。

 ドイツの障害者就労の考え方は、日本と非常に似ています。ドイツでは2007年に隔離政策から方向性を変え、地域に溶け込んで一緒に生活ができる環境をつくることをめざしました。日本も2005年の障害者自立支援法から考え方は同じはずなのに、「なぜ日本では障害者が社会に溶け込んで就労できないのか」と考えると、教育プログラムの仕組みが違うことが見えてきました。

 日本では2年間障害者を教育し、一般雇用に移行する仕組みで、「この方は何ができるか。得意なことを伸ばしていこう」と個人に合わせたプログラムです。そのプログラムでは、雇用先の仕事と折り合いがあわず時に身に付けた能力が中途半端になることがあります。

 ドイツでは、ホテル業など業種に特化して3年間教育します。1年半で基本的なリテラシーを学び、その後協力企業の現場で1年半みっちりと実地訓練を行い、一般企業に就職します。ホテル業なら最初からお客様の接待という目標がしっかりと定まっているので、将来の自分をイメージしながら仕事の訓練ができる点が日本とまったく違うと思いました。

 アルブレヒト氏ははっきりと障害者雇用には経済性との両立が重要と話しました。日本では経済性よりも福祉の視点が強くなります。「この方を守らなければ」と職員ががんばり、障害者が十分な働き手になっていないことがままあります。

 「働くこと、生きることにきちんと向きあっていくべき」と考えさせられました。

 最後に、「シュバルツバルト(黒い森)」を案内していただいた池田憲昭氏からの「森は生命体の集合体であり、その中にはさまざまな樹種があり、細菌や虫、動物もいます。それらの生命体に支えられて1本の木が生かされている。木は1本では生きられません。生存するために遺伝子レベルで互いに影響しあって変化させています。同じように人間も1人では生きていくことができません。『いろんな人々の支えの中で生かされている』ことを森は教えてくれる」とのお話に、ものすごい感動を覚えました。

 それぞれに違う人たちが互いに認め合って共存していくことがインクルージョンなんだ。今回の視察の根底にあったテーマを森から学びました。

これから宮崎で何をするか? どう宮崎経済を取り戻すのか?

(株)日向中島鉄工所 代表取締役 島原 俊英 (宮崎)

 一昨年に初めて欧州視察に参加して、世界の潮流を肌で感じ、大きな危機感を感じたものの、具体的な動きにつながっていませんでした。世界と日本の大きな違いや問題点はわかった。それでは、私は、何をすればいいのだろう? 何ができるのだろう? その答えを見いだすために、一昨年に引き続き、欧州視察に参加をしました。宮崎から4人の仲間とともに。

 まず、今回までの視察で特に感じた点をまとめてみます。

 (1)ドイツ・スイス両国において共通にベースにあるのは「社会性と経済性の両方を満たす」という考え方です。SDGsに表れているような、経済一辺倒に傾いた現代社会や経済構造への反省が強くあり、社会的正義と経済的合理性の両方を明確に意識して目標の設定、手法・戦略の構築、実行を行っているということ。

 (2)中小企業経営者や市民が、地域の課題に対して、自ら考え行動するという市民力が非常に高いです。理念・ビジョン・コンセプト・フィロソフィー・歴史・文化について最初に徹底的に討議し、メンバー間で共有してから、企業づくりや地域づくりに取り掛かるので、プロジェクトの推進力が強いです。

 さらに、地域経済を活性化させるために地域に必要なものを、安易にほかから持ってくるのではなく、経済性・科学性・技術の裏付けを持って、自分たちで作り出すという、自立した考え方や姿勢が根づいています。また、発電の廃熱を利用したコージェネシステム、地熱を利用したヒートポンプ、熱のカスケード利用、森林資源のカスケード利用など地域資源を徹底して使うためにさまざまな工夫をしています。

 (3)社会に価値を提供する専門性を高める教育を、業界ぐるみ、地域ぐるみで行い、地元企業・地域産業を、誇りをもって担う人材を育成して、有用な人材が自然と地元で働く仕組みをつくっています。

 それでは、これから、宮崎でなすべきことはなにか?

 (1)自分が主体者となって、地域経済を地域に取り戻す活動を始めること。地域の人々とともに地域のありたい姿を描き、未来世代に残す地域をつくっていく仲間づくりをすること。そのために、地域経済循環を目的とした、中小企業振興条例づくりに取り組むこと。

 (2)産学官を中心に、現状や施策の進捗状況を常に共有するために、地域のシンクタンク機能を持つこと。

 (3)具体的なプロジェクトを立ち上げて、課題を克服する成功事例をつくっていくこと。そのための人材を育成する仕組み(宮崎版マイスター、宮崎版デュアルシステム)をつくっていくこと。

 現在、日向市において、中小企業振興条例制定にむけての懇話会が立ち上がり、シンクタンク機能を日向市の中小企業支援機構に持たせる動きが始まっています。また、県北地区の人財育成分科会においては、産業人材育成の仕組みについての協議が始まりました。

 そのほかにもさまざまな動きが出てきました。

 昨年11月に、鹿児島同友会によるエネルギーの地産地消で地域経済を活性化させる取り組みの勉強会、「地域創生フォーラム~街づくりに活かす自然エネルギー」に参加をさせてもらい、宮崎開催の検討もなされています。また、1月19日には、ドイツでお世話になった池田憲昭氏をお招きし、延岡の自伐型林業推進協会と「森林・林業の未来を考えるワークショップ」を開催いたしました。

 地域の活動に大きな弾みがつきそうです。

「中小企業家しんぶん」 2019年 2月 15日号より