巨大地震への鎮魂と覚悟~昨年は1兆円を超える保険金を支出

 年末に1年の世相を表す「今年の漢字」が発表されます。応募者の約1割の人が選んだのは「災」。昨年は災害が続いた1年でした。

保険の額だけでも何と1兆円を超えています。大阪府北部の地震による地震保険支払金額は、阪神・淡路大震災の783億円を大きく超え、1033億円になりました。また、北海道胆振東部地震の支払金額は338億円です。

 風水害の損害保険金額も膨大。台風21号の支払金額は7478億円と過去最大。台風24号の2378億円、西日本豪雨の1902億円を合わせると1兆円を超えています。保険だけに頼るのは難しくなっているのです。

 例えば、南海トラフ地震が発生した場合、最悪の被害が生じたとすると、地震保険請求額は数十兆円を超えると想定されます。現在の地震保険積立金は1兆8000億円、支払限度額は11兆3000億円にすぎません。国家予算の数倍の被害が出れば、保険だけでは手当てできません。

 そんな大きな地震が…と思ってしまいますが、首都直下地震と南海トラフ巨大地震は30年以内の発生確率が70%から80%であり、「必ず来る」と言われています。これらの震災が起きることを防ぐことはできません。最悪のシミュレーションを河田恵昭氏(中央防災会議委員)が想定するとどうなるでしょう(河田惠昭「巨大震災の最悪シミュレーション」『生活協同組合研究』2019年3月)。

 南海トラフ巨大地震の政府の想定死者数は32万3000人です。内訳は22万が津波、8万人が住宅の全壊・倒壊、残りは火災と土砂崩れなどです。しかし、政府の想定では大阪府は9800人ですが、河田氏が委員長となって実施した大阪府の委員会では、13万4000人の想定死者数となりました。なぜ10倍以上も大きくなる結果となったのか。それは、用いたデータが大阪府の場合がはるかに高いのです。

 一方、高知県や三重県などの沿岸部では、どうなるでしょう。2018年7月豪雨の際の倉敷市真備地区の被害が参考にできます。51名が犠牲になり、そのうち46名が高齢者で42名が避難行動要支援者でした。自力で2階に上がれないとか、玄関にたどり着けないなどが原因で犠牲になりました。ところが、政府の計画では、そのようなことは考慮されていません。被害想定結果をはるかに上回る未曾有の犠牲者が出る危険性が大きくなるのです。

 首都直下地震の人的被害は2万3000人と想定されていますが、阪神・淡路大震災と同じような被災過程をたどるのであれば、5万1000人が犠牲になってもおかしくありません。しかも、道路ネットワークや鉄道ネットワークの寸断、京浜コンビナートの火災などが重なれば、1923年関東大震災を軽く上回る犠牲者数の発生を心配しなければならないのです。

 東日本大震災から8年。鎮魂とともに、来る大震災への覚悟を踏み固めようではありませんか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 3月 15日号より