【シリーズ 東日本大震災から8年】長崎全研 第10分科会〈中同協・REES/危機対応と防災〉 震災の時代に立ち向かう中小企業の役割とは

 2月21~22日に開催された第49回中小企業問題全国研究集会第10分科会での渡部明雄氏(福島)の報告概要を紹介します。

アース建設(株)代表取締役 渡部 明雄氏(福島同友会副理事長)

震災から8年、福島の光と影

 東日本大震災から8年が過ぎようとしております。その中で、「中同協REES」を発足し支援いただきました全国の皆さんへ感謝を込めて震災からの教訓を報告します。

 福島の「光」についてですが、震災からの復旧・復興面では、除染が順調に進み、県土に占める避難区域率は12%から3%に縮小されています。福島県には59市町村があり、そのうち2町村は帰還への基盤整備、復旧作業すらできていないのが現実です。Jヴィレッジは復旧しましたが、常磐線(電車)はまだ復旧しておらず2021年に開通する予定です。常磐自動車道は仙台市まで延伸しました。復興の切り札となる国家プロジェクトの「福島イノベーション・コースト構想」は、南相馬市の福島ロボットテストフィールドや浪江町の水素製造拠点が動き出しています。農作物の安全性についてですが、放射性基準値を計測しているものは、すべて安全です。出荷されているものはすべて検査をされていますので日本で一番安全な農作物と言えます。水産業については試験操業が始まっており、順調に進んでいます。また、福島県産日本酒が全国新酒鑑評会で6年連続日本一にもなり復興に向けた「光」となっています。

 福島の「影」についてお話します。現在、避難数は、ピーク時16万人から4・3万人に(うち7,000人が子ども)になりました。しかしまだ4万人以上の方が、現在も避難生活をしていることになります。故郷への帰還率については、川内村は80%になりましたが浪江町はまだ3・3%、富岡町も4・0%の状況です。本来認められるわけではないと思いますが2つの住所を持っている住民もいます。第1原発の廃炉の見通しは、あと30年から40年は続くと言われています。観光の再生状況ですが、震災前と比較すると、観光客の戻りは9割になりましたが、教育旅行は6割しか戻ってない状況です。人口減少は全国的な課題ですが、福島県は、現在県民が186万人になりました。震災から7年間で16万人も減少しています。特に原発周辺の市町村は、人口減少が激しい状況です。

 福島県では「ふくしま創生総合戦略 ふくしま7つの挑戦 」を進めています。(1)ふくしま雇用・起業創出。(2)「しごと」を支える若者の定着・還流。(3)農林水産業しごとづくり。(4)定住・2地域居住推進。(5)観光コンテンツ創出。(6)切れ目のない結婚・出産・子育て支援。(7)「リノベーションのまちづくり」の7つです。福島県は、地震、津波、原発、風評の被害に加えて一番怖い風化が起こりつつあります。それは、これから先、廃炉作業が30年、40年と続く中で、皆さんが原発事故を忘れてしまうことです。原発問題は日本だけではなく、世界の問題でもあると思いますので、常に皆さんに認識しておいていただきたいのです。

 「県の平成30年度の総合計画一1の重点プロジェクト」にも取り組みました。(1)人口減少・高齢化対策。(2)避難地域等復興加速化。(3)生活再建支援。(4)環境回復。(5)心身の健康を守る。(6)子ども若者育成。(7)農林水産業再生。(8)中小企業等復興。(9)新産業創造。(10)風評・風化対策。(11)復興まちづくり・交流ネットワーク基盤強化です。これほどの取り組みは、もし原発がなければここまでならなかったと思います。単なる原状回復である「復旧」にとどまることなく、将来に向けて地域をより活性化させていく「復興」への取り組みは、これからも続いています。

全会員アンケートから見えた福島の教訓

 「震災7年8カ月同友会全会員アンケート結果」について報告します。

 ここ半年の景況感については「好転が15・6%」、悪化が約3割強の36・6%、また来年の見通しが「好転」が17・0%、「悪化」が4割近い38・9%。今最も直面している経営課題の第1位は「人材確保」で約4割の39・2%という結果です。人材確保については全国共通の課題であり、外国人の技能実習生を日本で何十万人も受け入れているところです。人材確保ができなければ会社経営が難しくなります。人材確保をするためにもよい職場環境をつくる必要があります。

 防災・津波への備えとして「準備すべきものは」の回答トップは防災グッズです。その中にホイッスルがあります。工事現場では当然、誘導するときにホイッスルを使用していますが、子どもたちの安全を守る。危険を知らせるという点では、ホイッスルは非常によいものだと思いました。「災害の時代」と言われる中で、いま全国に発信すべき「福島の教訓」があるかという問いには、「ある」が6割近い57・9%、「ない」が8・4%という結果となりました。

原子力災害を伴う震災復興経営指針

 震災復興経営指針書は、東日本大震災の発災により人類史上経験のない「原発事故に伴う複合災害」に遭遇した福島同友会が、発災直後から8年間にわたり取り組んできた復旧・復興活動の経験と教訓をここで整理し、全国各地会員の皆様に「原子力災害を伴う震災復興経営指針」としてまとめ、同友会版BCP(非常時対応事業継続計画)として活用していただくことを目的としています。

(1)「災害の時代」にたちむかう福島の5つの教訓

(1)危機意識の日常化。
(2)防災対応の常態化。
(3)正確な情報の確保。
(4)風評被害への対応。
(5)原発事故への対応。

 福島の5つの教訓がありますが、原発地区だけではなく通常の災害にも当てはまる内容です。

(2)非常時対応への日常的な経営課題

(1)社員教育の徹底。
(2)災害用品の常備。
(3)避難訓練の実施。
(4)現金と資金調達。
(5)その他経営課題。

 基本的な経営課題とリンクもしていますが、通常の経営の中で、社員とともに常態化していくことが重要になっていきます。

(3)非日常的対応への本質的な経営課題

(1)経営指針見直し。
(2)社員教育の徹底。
(3)地域との関係性。
(4)危機対応力強化。

 われわれの経営指針の見直しをする中で、社員一人ひとりの命と生活を守ることは企業の最優先課題です。また、同友会の全国ネットワークにより、震災の当初から中同協より収集したさまざまな情報を県本部から会員へ発信できたことも、会社の復興に大きな力となりました。

(4)発災直後の震災復興経営指針(2011・3・31発表)

 発災直後、まず企業存続のための行動を今すぐとろう!
(1)社員に対する対応。
(2)お客様・取引先に対応する対応。
(3)金融機関に対する対応。

 復興初期(発災~半年)自社の存在意義を発揮し、地域再生に向けての情報を発信しましょう。
(1)経営理念を発揮する時。
(2)社員の雇用を守る。
(3)地域の仕事づくりを。

本格復興期(発災半年以降)
(1)経営指針の再構築。
(2)社員教育の徹底。
(3)地域とともに。
(4)企業の総合力強化。

 この「震災復興経営指針」をおのおのの地区、支部の勉強会などでぜひ活用していただければと思います。まだ震災から8年です。10年が経ちましたら、REESにて震災復興状況報告書をまとめて皆さんに報告できるようにしていきます。

会社概要

設立:1989年
正社員数:29名
資本金:2,000万円
年商:12億円
事業内容:総合建設業
ホームページ:http://www.a-su.e-const.jp/

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 5日号より