イノベーションの拠点としての中国とは!?~中国は「中進国の罠」から脱却できるか

「2019年の日本産業を読み解く10のキーワード~この底流変化を見逃すな」(増田貴司・(株)東レ経営研究所、2019年2月26日)の中に「イノベーションの拠点としての中国」のキーワードが解説されています。そこには、中国がイノベーションの分野で世界をリードしつつあり、米国に迫るデジタル先進国となっているとあります。通信機器メーカーで世界第2位のスマートフォン・ベンダーの華為技術(ファーウェイ)の大騒動からでも何となくわかりますが…。

 これらを解説するのに説得力のある理論がリープフロッグ(カエル跳び)現象。新興国において、先進国がたどった発展過程を経ずに(途中の段階を飛び越して)、一気に革新的な技術や事業モデルが普及する現象のことです。

 さらに、イノベーション拠点として、中国ならではの優位性があるとします。

 第1は、中国では知的財産権の保護が不十分な状況がイノベーションを促進している面があります。安価なコピー製品が出回ることによって爆発的な需要拡大が起こる。パクリや信用できない業者を指摘してくれるデザインハウスと呼ばれる企業群が登場するなど、イノベーションを支援する仕組みが整いつつあります。

 第2は、13億人超の巨大な中国市場をサービスの展開先とすることで、信用・購買履歴などのビッグデータを迅速に蓄積し、AIを使って分析できる点です。 さらに、個人情報保護の観点からビッグデータを集めにくいといった制約が欧米に比べて小さいことも中国ならではの強みです。データ分析結果を個人向けの販売促進だけでなく、国家機関と結びつけて治安や社会秩序の維持の目的にも活用できる環境にあります(恐ろしい!)。

 第3は、このような環境下で、サービスが未成熟なうちから市場に投入し、競争と淘汰、修正を繰り返しながら短期間で社会に根づかせていくといった「社会実装型のイノベーション」が促進されることも中国の特徴といえます。

 このような独自の優位性を備えた中国の深圳(しんせん)などの都市が、米国のシリコンバレーのようなイノベーションをリードする存在となっているとします。しかも、この筆者は「言論の自由が抑制され、法の支配が不在で、知的財産権が守られないような国ではイノベーションは生まれないというかつての常識は覆された」とまで述べます。しかし、言論の自由や法の支配が不在な中で、本当にイノベーションの先進国たりえるのか。多くの疑問が湧いてきます。

 米中のハイテク覇権の争いの影響で、外国の技術を安く手に入れることも今後は難しくなります。1人当たりGDPが1万ドルを超えるあたりから、途上国の経済成長が停滞する―いわゆる「中進国の罠」に陥るのか(日本経済新聞、2019年3月18日)。

 いま中国では1日当たり1万8000社の会社が生まれています。1週間で日本の年間の新設法人数に匹敵します。この爆発的な起業家精神をイノベーションにつなげることができるのか。中国はもう1つの正念場を迎えています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 15日号より