【同友会景況調査(DOR)概要(2019年1~3月)】中小企業景気も下方屈折、前途の不安定さ拭えず

〈調査要項〉

調査時点 2019年3月1~15日
調査対象 2,397社 回答企業 872社(回答率36.4%)(建設152社、製造業277社、流通・商業268社、サービス業167社)
平均従業員数 (1)42.64人(役員含む・正規従業員)(2)32.67人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。
 好転・悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考えで作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

主要指標全面的に悪化、次期回復も弱含み

日銀の3月短観(全国企業短期経済観測調査)は、米中貿易摩擦や海外景気の減速等の影響を受け、大企業製造業、非製造業をはじめ多くの規模・産業で悪化となりました。製造業に関しては市場予想を超える悪化となっただけでなく、先行きも悪化を見込んでいます。

DOR調査、次期はわずかに好転見込む

DORでも業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は7→3、足元の業況を示す業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も12→4といずれも悪化。ほかの指標も全面的に悪化しており、中小企業景気も下方屈折しています。次期(2019年4~6月期)は好転、横ばいを見込んでいますが、前期DORにて指摘した「新年は波乱含みか」の幕開け、今後の展開にいっそうの注意が必要です。(図1)

製造業で大幅悪化、建設業は好転

業況判断DIを業種別でみると、建設業が3→11で8ポイント好転、製造業が8→△4で12ポイント悪化、流通・商業が5→△1で6ポイント悪化、サービス業が12→13で1ポイントの小幅好転で、建設業の好転と製造業の悪化が対照的な動きとなりました(図2)。

地域別では唯一マイナス水準だった北海道・東北が好転し、すべての地域でプラス水準となりました。一方で企業規模別ではおおむね悪化傾向となり、20人未満、50人以上100未満がマイナス水準に落ち込みました。

仕入単価は高止まり、採算への影響じわり

売上高DI(「増加」-「悪化」割合)は7→5、経常利益DI(「増加」-「悪化」割合)は0→△1と今期は悪化基調となりました。仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は45→43とわずかに緩和されましたが、高止まり傾向が続いています。売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)15→14で価格差に大きな変化はなく、1人当たり売上高DI、1人当たり付加価値DI(いずれも「増加」-「減少」割合)6→6、3→1と横ばい、悪化となり、採算悪化が懸念されます(図3)。

高まり続ける人材不足感

雇用面では人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)が△48→△51となり、90年代前半と同様の強い不足感となりました(図4)。不足感の強さは企業規模が大きくなるほど顕著に表れており、サービスの維持、事業継続に対する危機感の強さを物語っています。

設備投資理由「合理化・省力化」増える

今期の設備投資実施割合は36%、前期に計画されていた割合と同様の設備投資実績となりました。設備投資目的は「能力増強」「維持補修」に加えて「合理化・省力化」を挙げる企業も増えています。一方で、設備投資をしない理由として「投資しても採算の見込みなし」の割合も増えており、設備投資に対する姿勢は二極化傾向にあります。

「人材」が経営課題の焦点に

経営上の問題点は2018年以降、「従業員の不足」「人件費の増加」「仕入価格の上昇」の指摘が高まっています。2019年4月からの働き方改革法案の施行による人材確保・労働環境整備への対応に加え、原材料費や配送料などの値上げへの対応、それらを含めた採算の維持が最大の経営課題となっています(図5)。

また、経営上の力点として「新規受注(顧客)の確保」「付加価値の増大」「人材確保」「社員教育」を指摘する割合が拮抗する傾向にあり、仕事の質・量を確保していくため、それを支える社員の存在感がますます大きくなっています。

〈働き方改革への対応事例〉

○働き方改革、健康経営の一貫として、業務時間内に毎月1回運動日を設定して実践するプロジェクトを立ち上げ、実行に移した。(長野、製造業)
○業務の見える化を行い、効率化を計画している。多くのコスト負担がある。(愛知、製造業)
○開院時間と就業時間の変更を行い、残業時間の削減に取り組んだ。(福岡、サービス業)
○体力と気力のモチベーションを高く持ち続けられる風土づくりと、安全輸送にかける管理業務を充実させている。働き方改革で労務管理にコストもかかり、人件費の増加が課題。(奈良、流通・商業)
○作業の安全確保へ向けた車輌の修繕やITソフトの導入。(岡山、建設業)

「中小企業家しんぶん」 2019年 5月 5日号より