「毎日が安売り」脅威の価格戦略~軽減税率への対応を機に浮かび上がる「価格」思想の違い

 最近スーパーの折り込みチラシを見る機会が減ったと思います。新聞の発行部数が減っているため、連動して折り込みチラシも減っているようです。

 電通によると、「折込広告」の市場規模は2007年に6,549億円だったが、2018年には3,911億円となり、この10数年で4割も市場が縮小しています。たとえ、宅配で新聞を取り続けていても、これまでチラシで把握していた商品の特売情報もスマートフォンでチェックすればよくなっていることは周知の通りです。

 チラシ特売の退潮とともに、流通業界で台頭してきているのが「エブリディ・ロー・プライス(EDLP、毎日安売り)」という価格戦略です。チラシや店舗の運営経費を徹底的に省き、浮いた経費を原資に店頭売価を引き下げるというやり方。体力勝負の大手の戦略です。

 そもそもEDLPの先駆けは、米ウォルマート。今注目されているのが、九州を地盤に勢力を伸ばしているドラックストア大手のコスモス薬品です。あっという間にドラッグストア業界3位に浮上。M&A(企業の合併・買収)で規模を拡大しているわけでもないので、その成長力はすさまじいものがあります。

 コスモス薬品が躍進を遂げている理由は、経費率の低さ。同社は日替わりや時間帯別の特売やポイントカードを廃止しました。それによって特売のために発生する値札の貼り替えや無駄な陳列作業、発注や納品作業も簡素化し、特売で発生するコストを排除し、店舗のオペレーションコストを徹底的に低く抑えています。この結果、コスモスの売上高経費率は15.8%。業界2位のウエルシアのそれは約26%です。一般的スーパーの経費率も28~29%ですから、経費率で10%も差があれば、当然店頭で設定できる価格もライバルに大きく差をつけられるわけです(森山真二「スーパーで『特売日』がなくなり『毎日安売り』が増えている理由」ダイヤモンド・オンライン、2019年8月21日)。

 中小企業は同じ土俵では勝負できません。消費者は本当は何を望んでいるのか。例えば、京北スーパー(千葉同友会会員企業)のように“本物”志向に徹するのも行き方の1つです。

 ところで、消費税率10%への引き上げ予定に伴い導入される軽減税率制度。食料品など一部の税率が8%に据え置かれますが、同じ外食大手でも対応が分かれるようなのです。

 牛丼チェーンのすき家が上記導入後も店内飲食と持ち帰り時の税込み価格を統一すると発表しました。これに対して、ライバルの吉野家は持ち帰り(税率8%)と店内飲食(同10%)の支払価格を別にする方針のようです。すき家のように「同じものを買っているのに、価格が異なるのは分かりづらい」「分かりやすさ」を求めるのか。「商品の価値はひとつ」という思いを込めた吉野家か。軽減税率の対応によって、各社の価格に対する思想の違いが浮かび上がった格好です。

 お客様は「価格」に何を望むか。考え直す機会かもしれません。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 9月 15日号より