アマゾンが前提の未来生活~アマゾン・エフェクトからアマゾン中心へ?

 日本経済新聞の9月23日のトップを飾った記事ですから、ご記憶の方も多いかもしれません。「米小売店、3年で1万店減」のタイトル。米アマゾン・ドット・コムが既存の小売業を脅かす「アマゾン・エフェクト」が猛威を振るっているという記事です。

 アマゾン・エフェクト(効果)とは、世界一の億万長者になったジェフ・ベゾス率いるアマゾンの快進撃の陰で業績の低迷にあえぐ米国企業が増えているということ。書店に限らず百貨店やスーパー、生鮮品、家電量販店、コンテンツ産業など幅広い業態におよびます。

 北米の売上高は2018年が1413億ドルと10年間で14倍に拡大。2017年の玩具販売のトイザらスも破綻しました。

 最近ではアパレルの苦境が目立ちます。UBS証券は2018年から2026年までに閉鎖が見込まれるのは7万5000店と予測。このうち「衣料・アクセサリー」が約2万店と最も多い予想となっています。

 日本市場もうかうかしていられません。2018年度のアマゾンジャパンの売上高は、ついに国内小売企業全体で第5位まで登りつめました。

 同社はなぜ急成長を持続できたのか。さまざまなレポートで論及されているものの、企業体質という側面からみると、次のことが言えます。

 1つは、長期的な成長を前提とした継続的な大規模投資です。アマゾンは、生じた利益の株主配当を1度も行っておらず、将来への投資に注力を続けてきました。2018年度の研究開発費は226億ドルで、圧倒的な世界一です。

 もう1つは、「まだ見えないニーズ」に対してリスクを許容する姿勢。アマゾンオークション(1999年)をはじめ、これまでにアマゾンが撤退した事業は、10を優に超えます。アマゾンはまだ見えない潜在的な顧客ニーズに対してもリスクをとり、先手を打ち続けてきました(『情報未来』62号、NTTデータ経営研究所)。

 アマゾンらしさがよく出ている話です。猛スピードで片っ端から製品開発を進め、完璧にならなくても、それらを圧倒的競争力を持つ価格で市場に投入し、勝ち抜いていくという戦略です。米アップルとは対極的。アップルといえば、職人技とこだわりによる徹底した開発を秘密裏に進め、完璧な製品に仕上がるとそれにふさわしい高価格で発売する戦略です。

 しかし、最近のアップル社の現状から言えば、アマゾンに分がありそうです。1年前、アマゾンは人工知能(AI)「アレクサ」が搭載された多くの消費者向けデバイスを一気に発表しました。これは、IoTの時代が到来した時、すべての中心にアマゾンのサービスがあるという状況にする布石かもしれません。

 どんな会話も聞き漏らさないスマートデバイスに囲まれて、常に監視されている生活はどうでしょうか。そんな未来はおぞましいと思うか、当たり前の生活なのか。(日経、10月4日)。

 私たちは未知の生活領域に足を踏み入れつつあるようです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 10月 15日号より