等身大かつ将来を見据えたIT投資、導入で付加価値向上を

【同友会景況調査(DOR)2019年4~6月期オプション調査の結果から】

 日常生活にも、企業活動においても欠かせなくなったIT。会員企業ではどのように利活用されているのでしょうか。2019年4~6月期の同友会景況調査(DOR)において、「IT利活用に関する状況調査」のテーマでオプション調査(回答企業は2380社より942社)を実施しました。その結果を、企業環境研究センター委員で玉川大学経営学部准教授の長谷川英伸氏に分析してもらいました。

[調査要領]

調査時:2019年6月1~15日
対象企業:中小企業家同友会会員
調査の方法:郵送により自計記入を求めた
回答企業数:2,380社より942社の回答をえた(回答率39.6%)(建設169社、製造業288社、流通・商業284社、サービス業192社、その他9社)
平均従業員数:役員を含む正規従業員39.9人、臨時・パート・アルバイトの数23.8人

IT活用は、通信技術が多い

 調査結果を以下から説明します。設問1(複数回答)の「ITの中で利用しているもの」では、上位から「パソコン」99.1%、「自社ホームページ」89.0%、「スマートフォン」56.8%、「パッケージソフト」51.7%、「独自の業務システム」47.4%、「タブレット」41.6%、「SNS」33.4%となっています。

 下位をみると、「ハード(端末)その他」0.8%、「利用していない」2.7%、「自社アプリ」2.8%、「Fintech(オンライン決済、仮想通貨、クラウドファウンディングなど)」5.2%、「POSシステム」7.3%、「メールマガジン」8.9%、「インターネット広告」10.1%となっています。(図表1)

 設問1の回答結果からわかるように、主にインターネットに関連する項目が上位となっています。「パソコン」、「スマートフォン」は業種問わず日常業務で欠かせないものです。「自社ホームページ」、「SNS」においては、自社の存在をアピールする広告媒体として有効です。ただ、「SNS」を活用している会員企業が約3割にとどまっています。「SNS」の活用の割合は業種ごとに異なると考えられますが、サービス業(飲食店等の対個人サービス業)では、「SNS」を新規顧客開拓に活用している事例が増加しており、「SNS」をいかに活用していくかを考える必要があります。

 図表2をみると、「SNS」を活用していると回答した会員企業は、前年同期と比べて売上高が増加した割合が多いことがわかります。そのほかにも、「自社ホームページ」、「メールマガジン」、「インターネット広告」といった項目にも関しても同じことがいえます。

 日本は情報化社会がますます進展しており、企業経営に大きな影響を及ぼしています。ITは経済活動を変革し、ITに対応できない企業は収益が生みにくい時代です。つまり、企業は販売活動や生産活動といった主要な経営活動にITを活用しなければ収益効果は望めないのです。

IT化を顧客価値創造にリンクさせる

 設問2(複数回答)の「IT化の目的」では、上位から「業務効率の向上」64.5%、「社内情報共有」49.5%、「営業、業務、財務などの情報の一貫化」48.5%、「販売促進」16.8%、「顧客満足度の向上」16.1%、「新規顧客開拓」14.1%、「新規採用」11%となっています。

 下位をみると、「その他」0.7%、「既存事業の見直し」2.1%、「新規事業進出」3.2%、「キャッシュレス対応」3.4%、「工期・納期短縮」4.5%、「従業員のモチベーション向上」6.2%、「セキュリティ」6.3%となっています。(図表3)

 設問2の回答結果からわかるように、業務処理や管理活動といった社内活動の項目が目立っています。一方、顧客ニーズの把握、開拓等の関連項目が下位となっています。例えば、「キャッシュレス化」、「新規事業進出」、「新規顧客開拓」、「顧客満足度の向上」、「販売促進」の割合が伸び悩んでいるように考えられます。グローバル化経済のなかで、IT化の目的は、社内業務の効率化のみならず、顧客価値を創造する取り組み、企業と顧客を結びつけることも重要となります。情報化社会の中で、競争優位を得るためには、他社が持っていない情報をいかに入手するかが問われます。もちろん、情報を入手するだけではなく分析し、顧客ニーズをとらえ、顧客を獲得するための方策を考案する必要があるのです。

 ITは日々進展しており、膨大なデータを用いてニーズ分析に活用できるビックデータ、モノとモノをインターネットでつなげるIoT、人間の思考能力をしのぐAIといった領域に入ろうとしています。自社のIT化に終わりはなく、その時代に合ったITを活用し、顧客価値創造を可能とするツールとして使いこなさなければなりません。

IT化と収益化

 設問3(複数回答)の「IT化の課題」では、上位から「費用対効果」51.9%、「社内の体制や仕組み」47.8%、「セキュリティ・情報漏えい」33.8%、「投資費用」30.6%、「人材不足」25.1%、「社員の理解不足」20.4%、「個人情報保護」13.2%となっています。

 下位をみると、「その他」0.9%、「業界での標準化」5.1%、「的確な情報をつかめない」5.4%、「情報量が多すぎる」10.3%、「具体的な活用方法がわからない」10.4%、「経営者の理解不足」10.6%、「技術進歩が速すぎる」11.1%となっています。(図表4)

 設問3の回答結果からわかるように、IT化と収益が結びついていない会員企業が多いことがわかります。「費用対効果」が最も多いということは、会員企業はIT化に費用をかけても、収益が期待できないと悩んでいる状態です。中小企業の中には、IT化の投資額に見合った収益効果を得られないケースが見受けられます。原因としては、業務量に見合っていない高度なIT設備を導入していると考えられます。

 また、「人材不足」、「社員の理解不足」、「経営者の理解不足」といった人材の課題も見受けられます。この対応策としては、ITの知識や理解がある人材を育成し、IT化に対する社内体制を整えることが求められます。経営者は自らITのメリット、デメリットを認識し、従業員に無理な負担をかけずに、最適なIT化を選択しなければなりません。

「中小企業家しんぶん」 2019年 10月 25日号より