【黒瀬直宏が行く 魅力ある中小企業】社長の仕事は「明るく、ニコニコ」(株)東邦プラン 代表取締役 本多 修氏(神奈川)

黒瀬直宏・嘉悦大学元教授が、社員がイキイキと働く、魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。第3回目となる今回は、(株)東邦プラン(本多修代表取締役、神奈川同友会会員)に話を聞きました。

 (株)東邦プラン(従業員28名、1989年創業)は広告制作(折込チラシ・パンフレット・DM等の制作・印刷、ウェブ広告の制作・運用など)を行っています。創業時は印刷会社のために注文をとるいわゆるブローカーでしたが、1999年に新聞用の折り込みチラシのデザインなどを行うようになり、2008年ごろウェブ上の広告制作にも進出しました。

 従業員は45名に達していましたが、社長の本多修さんによると、創業以来20年間、組織らしい組織はありませんでした。将来のビジョンや経営理念などもなく、計画と言えば売上目標がある程度で、成り行き的な、我流の専制的経営でした。社員も、中途採用で来ては辞めるという状況でした。

 2008年のリーマンショックで売上が11億円から5億5000万円に陥ったことがきっかけで神奈川同友会に入会、経営指針作成部会に参加、しかし、当時は「何のために経営しているの?」、「食べるために決まっているだろう」という調子で、「労使見解」の言う「労使対等」についても、「お金を出しているのは私だから働くのは社員」と、その精神を理解できませんでした。

 しかし、同友会での勉強を通じ変わっていきます。先輩会員から1人ずつ社員を味方につけ、意見を取り入れながら経営理念をつくることが重要なことを学んでいき、うまくいってなかった社員教育も、中同協元会長の赤石義博氏(故人)との出会いにより「社員と面と向かうのではなく、社員の横に座り、同じ景色を見て共に学ぶ姿勢が必要」という言葉から取り組みが変わり、だんだんと軌道に乗りました。

 本多社長自身が変わることにより、かつての社長専制的な組織は社員中心の組織へと大きく変わりました。同社の「経営指針」の中の「企業目的」の最初には「働く楽しさを達成の喜びから学び、日々成長します」が掲げられました。

 経営指針のつくり方も重要です。「第31期経営指針」を見ると「経営理念」「企業目的」などに続き、「経営指針を運営する計画」という経営指針の項目別・部門別実行計画が載っています。ここは毎年変わり、担当社員のチームが作成し、発表も行います。

 「経営指針発表会」は30名以上の来賓も参加するもので、同社の最も大切な行事とされ、発表に当たっては先輩社員から指導を受けます。作成を担当するのは自分の所属部署だけではなく、営業部所属の人が人事・社員教育に関する計画作成にも参加するように、全社員が企業の各種マネジメントに関与しています。ちなみに人事・社員教育に関する計画の長期目標は「社員のモチベーションアップとスキルアップのできる職場環境をつくります」です。

 2017年、入社5年目の社員の発案で社員の「行動指針11か条」がつくられました。社長はまったくかかわることなく、全員参加の5グループを編成し、「社員、顧客、協力会社からどんな東邦プランであってほしいか」の声を吸い上げました。1、当たり前でも「ありがとう」、2、黙っていては伝わらない、言葉にしよう・動こう、3、「伝える」を「伝わる」にしよう、…11、『○○○』の達成の喜びをイメージしよう。

 それぞれの項目にはなるほどと思わせる説明があります。そして、つくっただけではなく、この項目に沿った行動をした人に気づいた人がその内容と感謝のメッセージを「葉っぱのカード」に書き入れ、全員が見られるようにしている「クレドの木」と「朝礼」での活用を通して毎日実践されています。

 社長へのインタビュー時にお会いした入社2年目の営業担当の女性社員も、行動指針の委員会に参加、浸透させるにはどうすべきかなどの活動をしています。彼女によると「会社の未来を担う人と一緒に会社をつくっていけるのが楽しい。この会社は自己発信型です。大企業に就職した友人たちは、もうそんな中枢的な仕事をしているのと驚く」そうです。彼女は、入社1年目、行政からの受注と言えば地元の川崎市役所とされていたところ、自らの提案で厚生労働省にアタックし受注獲得、これをきっかけに同社はほかの中央省庁への営業にも成功しました。社員が主体的にマネジメントにかかわっている、社員中心の組織が、新人の活躍を生んでいます。本多社長は1つ1つ教えるのではなく、社員の自主的な気持ちを育みながら働きやすい職場環境をつくることを大切にしており、「社長の仕事は明るく、ニコニコ」、仕事の指示はあえてしないそうです。

行動指針11カ条 ~クレドの木を満開にしよう

1.当たり前でも「ありがとう」
2.黙っていては伝わらない、言葉にしよう・動こう
3.「伝える」を「伝わる」にしよう
4.耳で聞き、目と体で受け止めよう
5.私たちが手掛けるのは、1つひとつが商品だ
6.誠実でいよう
7.先入観にとらわれず、まずは受け入れよう
8.1人じゃない、頼れるチームがある
9.WIN-WIN-WINの関係性を築こう
10.頭を使って期待を超えよう
11.「○○○」の達成の喜びをイメージしよう

会社概要

設立:1989年
資本金:5,000万円
従業員数:28名
事業内容:折込チラシ等の制作・印刷および配布企画、パンフレット・DM・雑誌等の制作印刷、デジタルコンテンツ運用ソリューション、ホームページの企画・制作
URL:http://www.tohoplan.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2019年 11月 5日号より