連載「エネルギーシフトを考える」第3回 世界一寒い家に住んでいるのは岩手の人たちです

毎年同じ場所を訪れることで見えること

 これまでの7回の視察の中で、毎回必ず訪れていたのがドイツのフライブルク市です。毎年同じ場所に実際に立つことで、変化がよく見えてくることもあります。

 この間の景観の変化は、壁面すべてがソーラーパネルで覆われた巨大な市庁舎が出現したことや移民の方々向けの木造住居が急激に増加したこと、そしてスウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさんの呼びかけから始まった「未来のための金曜日」のポスターが至る所に見えるようになったことなどです。また日本では見かけない700~800キロワット級の小型蓄電池が日常の風景に見られたりと、恐らく現地で肌感覚で得られる変化は、最も新鮮な情報だと感じています。

衝撃を受けた伝統ある美しい街並み

 今でこそ、街なかにはまったく人がいない日々が続いていますが、2013年秋に中同協の視察で初めて訪れたドイツのフライブルク市は、平日の朝にもかかわらずたくさんの人々で溢れていました。

 私たちはまだ震災復興の真っ只中、瓦礫が残るモノトーン色の街並みから突然、約800年前に造られた大聖堂を囲む煉瓦色の、整然とした街並みを体験することになりました。まさに「ドアを開くと別世界が広がっていた」ような錯覚を起こすほどの衝撃に、閉塞感で先行きへの不安と展望の描けない状況から、一気に花が開いたような感覚を得たのを思い出します。

 人口23万人、学生が2万5,000人もいる街の中心部2㎞圏内に、日中は車が入ることができません。オペラ市民劇場もあり、約560年続く伝統あるフライブルク大学もあり、大聖堂を囲んだ広場には数々の市(いち)が並び、年代を超えてたくさんの人々が石畳をそぞろ歩いています。

 その背景にはトラムの存在があります。信号もなく縦横無尽に街中を走りまわっているトラムには切符の改札はなく、パスによっては休日に郊外から家族全員が無料で乗ることができるものもあります。市民の足である都市交通網のあり方に、まず驚かされることになります。

住環境としての機能をどう高めるか

 郊外に15分ほどトラムで移動したヴォーバン地域にある住宅街に足を踏み入れたとき、さらに驚きは増幅しました。フランスの兵営地であったその地がベルリンの壁崩壊、冷戦の終結に伴い返還され、住宅地として整備が始まったのは1992年7月のことです。

 ドイツでは一般的に集合住宅が主体です。戸建住宅は街から離れた丘の上などに数軒見られますが、住宅街のほとんどは木造の4階~5階建ての住居が並んでいます。その多くが住民が主体になりコンセプトから話しあってつくられたコーポラティブハウスです。

 約5,000人が住む閑静な住宅街を歩きながら案内いただいたのは、現地在住のジャーナリスト、村上敦氏でした。そして開口一番「世界中の住宅の中で、一番寒い家に住んでいるのは岩手の人たちです」と話したのです。もしかしたら、北東北と話したのかもしれません。しかし宮澤賢治の「雨ニモマケズ」を想起するほどのあまりの衝撃に、何を言われたのか覚えていないほどでした。住まいの住環境としての機能をどう高めるか、が大きな考え方の違いであることに、後に気づくことになります。

熱を外に逃がさない、という考え方

 私たちの日常使うエネルギーの多くは、いまだ中東やロシアで採掘された原油に依拠しています。タンカーで海を渡り日本に到着し、その後タンクローリーでガソリンを燃やして陸路で運ばれてきたものです。それを燃料に生み出された電力が系統を通じて私たちの日常の暮らしに使われています。長い道のりを経て漸く各家庭に供給されています。

 そうして苦労して生み出したエネルギーを使って、夏場にはエアコンで冷やし、冬場には石油暖房機でどんどん暖める。熱効率の悪い住居では多くのエネルギーを無駄にし、まさに地域の外にどんどんお金を流出させ、域外から購入しているのと同じことです。そこで大切なのが、供給された熱エネルギーを外に出さない住宅の性能でした。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2020年 5月 5日号より