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コロナ世界大不況と闘う中小企業(1)NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

連載 黒瀬直宏が迫る(番外編)

 新型コロナウイルス感染拡大による世界的大不況で中小企業はこれまでにない事態に直面しています。この未曽有の経営危機に中小企業はいかに対処するかをテーマに中同協の調査をもとにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)のレポートを2回にわたり掲載します。

世界の生産と消費の暴力的破壊

2020年1月からの新型コロナウイルス感染拡大による世界経済の劇的な落ち込みを「コロナ世界大不況」と呼んでおきます。この大不況は「新型コロナウイルスによる暴力的な世界の生産と消費の同時破壊」によるものです。だから、落ち込みは突発的で深く、また、感染が収束しても経済活動の担い手たち(中小企業!)が廃業・倒産で破壊されてしまっていると、回復に時間を要します。にもかかわらず「遅すぎて、小さすぎる」日本政府の経済対策には腹が立ちますが、救いは各地で中小企業家魂を発揮し、危機を乗り切ろうとしている経営者たちも少なくないことです。本稿はそのような中小企業を参考にし、この危機下での経営のあり方を2回にわたり考えます。

経営体質の改革

多数の中小企業が資金確保のため政府系金融機関に殺到するなど必死の努力をしています。同時に必要なのは今後の収益を見通すことです。これに関しては、会員企業のエイベックス(株)(従業員429名、2018年5月末)のリーマンショック時の対応が参考になります。危機を察した同社はコスト改善の目標金額を決め、改善課題ごとに全員参加のプロジェクトチームを結成しました。ムダゼロプロジェクト、品番違い撲滅プロジェクト、在庫低減プロジェクト、変動費低減プロジェクト、生産性上昇プロジェクト。その成果を数回の「プロジェクト発表会」で全社員が共有、改善効果を全員が実感し、一体感も高まりました。結果、30%の生産減少ならば、利益の出る経営体質への改革に成功しました。その後同社は自動車の国内減産で自動車部品サプライヤーが低迷する中、異色の売上増を実現しました。

中小企業は需要はコントロールできませんが、経営体質は変えられます。需要がコロナショック前の70%に戻ったら利益がでるよう体質改革すれば、いち早く立ち直れます。100%戻ればコロナショック前より増益となります。不況で従業員の稼働率が落ちていると思いますが、従業員の力を経営体質改革に向けるチャンスです。

人材の保全・雇調金の活用

エイベックス(株)の加藤明彦会長(当時社長)は「コストダウン活動や新分野開拓にはどうしても人材が必要で、人を切ることはできない」とし、全社員の前で人員削減は絶対行わないと表明、それどころか7名もの新卒者を採用しました。

「人は損益計算書上の費用ではなく貸借対照表上の自己資本だ。リーマンショック後の企業を分けたのは、人を費用として切ったか、自己資本と考え蓄積したかだ」と言っていました。中同協の同友会景況調査(図参照)によると人材削減が行われるのが普通の不況期にも、40%近くの会員企業が「社員教育・人材確保」を「経営上の力点」としているのに驚かされます。中小企業は経営資源として人的資源が大きな比重を占めるにもかかわらず、柔軟な対応力を持つ若手技能者や技術・マーケティングに関する専門人材など、中核人材の不足が慢性化しています。それが、エイベックス(株)と同じく人材を自己資本と位置づけ、蓄積すべきと考える中小企業を増やしているのだと思います。実際にも「コロナの影響が今後どうなるか予想できない中で、人材の採用と教育に力を入れる」(愛知県 ダンボール製造業)という声が聞こえます(「同友会景況調査 2020年1~3月期 」中の「経営上の努力―自由記述」より)。

しかし、落ち込む売上の中、どうやって雇用を維持するか、雇用調整助成金(以下、雇調金)に期待したいです。同友会会員は雇調金のことはもちろんご存知でしょうが、雇調金には休業手当の一定割合を助成するほか、教育訓練で雇用を維持している場合にその間の賃金の一定割合を助成する制度があり、特にこの利用を推奨します。リーマンショック時に次のような中小企業がありました。

大手企業も週3日稼働というような状況下、同社の売上も5分の1になっていましたが、カレンダーの休日以外は休んだことはありませんでした。

技術を高めるための絶好のチャンスと考え、この制度を利用し、毎日40~50人が参加する教育研修を行い続けました。月曜日は現場教育、火曜から金曜は社員食堂での座学。1日2人の講師は社員が担当しました。教えられる側だけでなく、教える側の力も高まり、地元大学の大学院でレクチャーを簡単に引き受けるようになりました。

このように雇調金は利用できると有益ですが、コロナ危機の特例で助成率引き上げ、申請書類の簡素化が行われたものの、4月24日時点では、約18万件の相談に対し、申請件数は2541件、支給件数282件にとどまっています。

煩雑な手続き、給付が遅い、給付上限額が低いという問題のさらなる改善が急がれます。

「中小企業家しんぶん」 2020年 5月 25日号より

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