【連載】役に立つ新民法~知らないと身を守れない改正のポイント 第1回

弁護士法人千代田オーク法律事務所 代表弁護士 児玉 隆晴 (東京)

 2020年4月に民法が改正されました。120年ぶりの大幅な改正となり、契約などに関する基本ルールについて約200の改正があります。企業経営に与える影響も大きく、知らなかったではすまされません。今回より4回にわたって改正のポイントをわかりやすく連載で紹介します。

改正の方向性

 民法(債権法)が120年ぶりに大幅に改正され、4月1日から効力を生じました。債権法は、契約ルールを中心とする法律ですので、この改正は企業取引に大きな影響を与えます。

 ところが、当初の改正案は、契約当事者の「合意」を徹底的に重視するものであり、「契約書至上主義」と評され得るものでした。つまり、契約書の記載によっては、中小企業など「契約において立場の弱い者」が一方的に不利益を受ける恐れがあり、重大な問題がありました。

 そこで筆者は、中小企業家同友会の皆様とともに、当初案に反対し、むしろ「公平・公正な取引を実現するという民法の基本的な考え方は変えず、その上で保証人などの立場の弱い者に配慮した改正にすべきである」旨の逆提案を致しました。

 その後、5年に渡って政府の審議会で議論がされ、おおむね私どもの提案の方向で改正案がまとまり、2017年に国会で承認された次第です。

 このようなことから、今回の改正は、基本的には中小企業の皆様にとって「役に立つ」改正となりました。ただし、「代表者保証の禁止」を民法に規定することには強い反対があり(経営者保証ガイドラインは作成されました)、今回は、第三者保証の制限にとどまりました。それでも、初めて民法で本格的に保証人保護の規定を設けることができ、重要な一歩を踏めたと考えます。

個人保証の制限

 事業のための金銭借入について個人に保証してもらう場合は、原則として、保証契約締結の前(1カ月以内)に、保証人が公正証書で保証意思を表示すべきこととなりました(新法465条の6)。

 この公正証書作成においては、公証人から保証人に対し、「借主が返済を怠ったときは、あなたが残元金など全額を支払わなければなりません。万一、支払わないときは、あなたの自宅や預金などが差押えを受けることがあります」旨の確認がされます。

 それでもあえて保証の意思を表示した場合に限って、保証契約が有効となりますので、そのハードルが高くなっています。今後、公正証書が作成されていない「事業のための貸金など債務の個人保証」は無効となりますので、ご留意下さい。

 例外として、「経営者」については公正証書の作成が不要です。この点、株式会社の場合は単なる取締役が、個人事業者の場合は「事業に現に従事している配偶者」が、いずれも「経営者」に当たるとされました(同条の9)。これらは問題がありますが、紙面の制約上、説明は割愛します。

 詳しくは、「もっとやさしく 役に立つ新民法」(信山社出版)の41ページ以下をご覧下さい。

もっとやさしく役に立つ新民法

弁護士 児玉 隆晴 著

 120年ぶりに大幅に改正された新民法(債権法)は、今年の4月から施行されました。この債権法は、「契約ルールを中心とする法律」であり、市民生活、企業活動にとって重要なものです。

 本書を著した児玉氏(弁護士法人千代田オーク法律事務所代表弁護士、東京同友会会員)は、改正にあたり契約において不利な立場に立たされやすい市民、中小企業の立場から「不当な条項、不利な契約」を押し付けられることがないよう運動を進めてきました。これは、同友会が金融アセスメント法制定運動を進める中で「貸し手と借り手は対等」の見地から個人保証のあり方について主張してきたことと軌(き)を一(いつ)にするものです。

 著者はすでに3年前『やさしく、役に立つ改正民法(債権法)』(信山社発行)を著し、会内の研究会でも講師活動に尽力いただきました。

 新著では、この間の運動の成果として「保証人保護の強化」や各種約款における「不当な条項の排除」を学ぶことができます。

 本書は、各章(全16章)ごとに(事例)が提起され、具体的な課題を考えながら読み進むことができ、誰もが活用できる好著です。経営者はもちろん社員の皆さんも手元において運用できる必読、必携の書としておすすめします。

(中同協顧問 国吉昌晴)

信山社出版発行、268ページ、定価1800円+税。

「中小企業家しんぶん」 2020年 5月 15日号より