【連載】「役に立つ新民法~知らないと身を守れない改正のポイント」最終回

弁護士法人千代田オーク法律事務所 代表弁護士 児玉 隆晴 (東京)

 2020年4月に民法が改正されました。120年ぶりの大幅な改正となり、契約などに関する基本ルールについて約200の改正があります。企業経営に与える影響も大きく、知らなかったでは済まされません。最終回の今回は債権法の改正の重要な点について説明します。

 債権法の改正は200項目に及びますので、紙面の制約ですべてを解説することができません。以下では、特に重要な点についてポイントを述べます。

時効

 債権の消滅時効については、旧法では「権利行使ができるときから10年」とされていましたが、あまりに長すぎるとの批判がありました。そこで、新民法は、権利行使ができることを「知ったときから5年」で時効が完成するという規定を追加しました(166条1項1号)。これにより、個人間の貸金債権も含めて、契約により発生する債権は「履行期から5年」で時効にかかります。貸主などの債権者は、履行期が来れば権利行使ができることを当然に知っているからです。

 ただし、労災において後から損害が発生した場合は、「労災によって損害が発生したことを知ったとき」から5年となります。単純に「労災事故から5年」となるわけではないので、ご注意ください。

 安全配慮義務違反によって損害が発生したことを知らなければ、「権利行使ができることを知った」と言えないからです。

担保責任について

 旧法下では、売買や請負の目的物に瑕疵(かし)があった場合、売主や請負人に担保責任が発生しました。しかし、瑕疵という言葉は、いかにも古くさくわかりにくいため、新民法ではこれを「契約の内容に適合しない」(以下「不適合」と言います)という言葉に置き換え、わかりやすくしました。

 そして、売主や請負人に、不適合について責めに帰すべき事由がある場合は、債務不履行による損害賠償責任が発生することを明らかにしました(564条、415条)。ただし、不適合がある物を売り渡せば、通常は、売主に責めに帰すべき事由があると認められます。

 また、契約の解除についても、買主や注文者が相当の期間を定めて追完(修補など)の催告をし、売主や請負人がこれに応じない場合に解除できるとしました(564条、541条)。ただし、この場合の解除権は、「目的物の受領後に、買主が契約を白紙撤回できる権利」ですから、その可否は新法下でも慎重に判断されます。具体的には、「不適合があっても契約目的の達成が可能である」場合は、「軽微」な不適合として解除が否定されると思われます(541条ただし書きの解釈)。

 なお、新民法は、目的物の種類・品質の不適合については、買主や注文者が不適合を知って1年以内に通知しなければならないとしました(566条、637条)。特に、木造建物の建築請負契約では、従来は「引渡から5年」とされていたものが、「不適合を知ったときから1年」に変わりましたので、ご注意ください。

法定利率

 年5%の固定利率が変動利率に変わり、かつ、当初は3%になりましたので、ご留意ください(404条なお商事時効廃止)。

「中小企業家しんぶん」 2020年 7月 15日号より