コロナ後の社会像展望は人間らしさを希求する姿勢で臨んでこそ

 「1945年8月15日、日本は戦争と飢餓に打ちひしがれた非常時に、とりあえずの終止符を打った。『非常時』とは、すべての国民が、等しく明日の命が保証されない状態を指す、と考えておこう」という一文から、村上陽一郎氏の考察は始まります(「COVD‐19から学べること」、『コロナ後の世界を生きる』村上陽一郎編、所収)。同氏は、戦時には何とか1日を生き延びた実感と「悦び」を得ていたが、「今日、そうした『生』の充実感は、どこか遠いところにある」としつつ、コロナ禍のもとで「高齢者の一人として、今日を無事に生きたことを、何者かに感謝する習慣を取り戻している」と述べています。

 終戦から75年を経た今、私たちは新型コロナウイルスにより「明日の命」とまで言わずとも、罹患による健康不安と、いわれのない社会的批判にさらされかねないとの危機感を抱きつつ生活しています。しかし現代の「非常時」は、「すべての国民が等しく」生命の危機にさらされていた戦時とは異なり、高齢者や貧困状態にある人々に、その不安は圧倒的にのしかかっています。

 全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長の湯浅誠氏は、「新型コロナは広い意味での災害であり、緊急事態宣言が解除されて経済活動も徐々に復活し始めました。こういう時に何が起こるのかといえば、『復興格差』であり、これがより深刻化していくのではないかと懸念している」と指摘しています(「ポスト・コロナ禍の復興格差は防ぐべき」日刊ゲンダイDIGITAL、6月26日)。

 さらに湯浅氏は、「こぼれにくい地域と社会を作っていくという発想に立つことが重要です」「今後は行政だけではなく、民間も含めて支え合うための網の目を細かくしていくことが必要」で、「こういう方向に多くの人が意識して動くことが大事です」と述べています。

 また内橋克人氏は、欧州を中心に起きているコロナ以前を「復元」するのではない思考、気候変動対策を中心におく「グリーン・リカバリー」の動きを「欧州『生まれ変わり』への強い意思表示」であると紹介し、さらに「産業革命以降の『生産条件』優位型社会から、ホモサピエンス(人類)にとっての『生存条件』優位型社会へと転換をはかる」時が迫っていると説きます(「コロナ後の新たな社会像を求めて」、『コロナ後の世界を生きる』所収)。

 いずれにしても、「コロナ禍が暴き出した社会的受難の歴史に、私たちは真正面から向き合うことを迫られている」(内橋克人氏、前掲)ことは間違いありません。来年の世界経済フォーラムのテーマは、「グレート・リセット」です。生命と生活を守る取り組みを進めつつ、経済・社会や地域の「ありたい姿」を描き、健全なポスト・コロナ社会をめざす議論と「復元」を望む議論とのせめぎあいが始まっています。

(Y)

「中小企業家しんぶん」 2020年 8月 15日号より