コロナ禍、自然災害で同友会運動を維持・継続していくために~『「小さな同友会でも対応できる万能型BCP」の手引き』(仮)第1版

中同協新型コロナウイルス対策本部は、コロナ禍にあっても台風や水害被害、震災なども想定される中、「どのような状況にあっても、同友会運動を維持・継続していくため」、7月に「小さな同友会でも対応できる万能型BCP」策定チームを編成しました。これまでに、4回にわたる会合を持つとともに、2回の全国事務局情報交換会で意見交換を行い、このほど『「小さな同友会でも対応できる万能型BCP」策定の手引き』第1版を発表しました。その概要を紹介します。

『手引き』の概要

「小さな同友会でも対応できる万能型BCP」策定チームは、「今般の豪雨被害の状況も鑑(かんが)み、豪雨や震災に対応してきた経験のある同友会の事務局長(菊田哲・岩手同友会事務局長、安本直一・岡山同友会事務局長、眞鍋麻美・高知同友会事務局長)に依頼してチームを編成し、これまでの『同友会事務局災害対応チェックリスト』なども見直しながら、小さな同友会でも対応できる同友会運動継続計画を策定する」こととしました。また、台風シーズンも見越して、任期は7月15日~10月15日と設定し、オンライン上で検討を重ねてきました。

同友会運動を継続するには、まず事務局が機能する状況をつくる必要があるため、第1版では、事務局業務の継続のためのBCPとしています。

「会員企業の強靭化なくして同友会組織の強靭化もない」との表現もあるように、日ごろからの「自主・民主・連帯」の精神で企業づくり、地域づくり、同友会づくりを推進することが、重要であることは言うまでもありません。

また、これは同友会運動の継続のためのものではありますが、企業も同様です。事務局長1人しかいない事務局の同友会を、個人事業主や小規模企業と見立てると、自社のBCPを考える気づきにもつながります。

はじめに~日ごろからの準備

「はじめに」には、「どんなに小さな同友会でも、突然の災禍において会員からの信頼と期待に応えられるメンタルと組織体制を保つことができるようにするには、どんな準備を備えていればよいのか」との問いかけから、「危機対応は準備された危機意識がなければ、対応は不可能」として、「日ごろからの準備が、今どの同友会事務局にも必須の条件」であり、「予測し得ない災禍がどこにでも起きうること、そしてそのために、各自がどのような準備をしておく必要があるかに気づくことを第1の目的」としています。

また、「災害では同友会がその役割を発揮すれば、会員数は決して減少しない」「地域の砦として事務局が災禍に向き合ってきた歴史に触れることで、何をすべきかが見えてくる」と、事務局の役割を振り返ることを推奨しています。 「事務局長に求められる役割」として、東日本大震災時の対応を紹介。「緊急時における連帯の力は同友会でこそ引き出すことができる」として、「事務局経営の責任者に期待されているのは、どのような環境下においても同友会運動を継続、発展させることです。それが地域の未来を創ることを信じ、互いに励まし合い、実践し続けて参りましょう」と呼びかけています。

同友会事務局とBCP

第1版の中核をなす「同友会事務局とBCP」は、BCP策定の気づきを与えるものとして、以下の6項で構成されています。

1.BCP(Business Co-ntinuity Plan)について
2.防災計画・緊急対応計画・事業継続計画(BCP)
3.「狭義のBCP」の策定
4.BCPの運用(文書化・保守・教育・訓練など)
5.成長戦略としてのBCP
6.BCPを機能させるために

また、「初動について」「BCPの発動基準」「会員の被害状況の確認について」など、その他の論点についても留意すべきポイントをまとめています。

1.BCPについて

「本来のBCPは、対象を限定することなく、あらゆる危機に際しても事業活動を継続するための計画」であり、「事業継続を直接に脅かすのは、地震、洪水、疫病といった原因事象ではなく、そこで生じた被害や経営資源が受ける制約(結果事象)」であるため、重要資源の保全と代替戦略が重要だとしています。

2.防災計画・緊急対応計画・事業継続計画(BCP)

事業継続計画を策定する場合は、(1)防災計画、(2)緊急対応計画(避難計画を含む)、(3)事業継続計画(狭義のBCP)の3つに分けて考えることを勧めています。

(1) 防災計画の目的は、生命と資産を守ること、生命を脅かす危険のある災害等の被害を最小化するための計画です。自治体の業務継続計画やハザードマップなどを参照しながら、発災の可能性が高い災害を特定し、予測される被害の中で人命と資産に対する影響が大きいと思われるものから順次対策を実施します。

(2) 緊急対応計画は、発災の初動に関わる計画です。主に、避難、誘導、傷病者の救急対応、2次被害防止、安否確認、重要書類などの持出し、情報発信などに関わります。誰もが即座に行動できるよう計画はできるだけシンプルに。職員の安否確認の方法、緊急連絡先一覧、備蓄品リスト、持ち出し品リストなども整備しておきます。

(3) 事業継続計画(狭義のBCP)の目的は、事業を守ることです。

防災計画が策定されていることを前提とした上で、それでも被害が出てしまった時ときのために、第2段階として「特に重要な」「最初に復旧させたい」事業(中核事業)のために集中的な対応を行うための計画です。

事前に手を打つべきことは防災計画でしっかり備える。それでも防ぎきれなかった場合は、BCPを発動して事業の存続を図ることになります。

3.「狭義のBCP」の策定

狭義のBCPでは、すでに被害が生じていることが前提になるため、防ぐことよりも再調達の計画が中心となります。

策定の一般的な手順はおおむね以下の通りです。

(1) 中核事業(中核活動)・重要業務の絞り込み(継続または最優先で復旧すべき対象の特定)
(2) 目標復旧水準と目標復旧時間の設定(いつまでに、どの程度まで復旧させるか)
(3) 復旧に必要な経営資源の特定(目標を達成するために最低限必要な資源を特定)
(4) 重要資源を確保するための計画((3)で特定した資源をいかに確保するか)

「(1)中核事業(中核活動)・重要業務の絞り込み」では、同友会事務局にとって、何らかの理由で一時的に活動の中断を余儀なくされた場合、最優先で再開しなければならない中核活動・重要業務を明確にしておきます。

事務局機能がまひしていても会員同士で情報や意見の交換ができる会合、形式にこだわらない会員との接点を保ち、会員同士の絆を維持することができる場の確保。また、教訓の蓄積も代替不可能な重要資源です。その意味で、将来のために活動記録を保存し、適切に管理することもまた事務局が担うべき重要な業務です。

「(2)目標復旧水準と目標復旧時間の設定」では、中核活動・重要業務をいつまでに、どの程度まで復旧させるかを決めます。初めてのBCP策定では大まかな目安を立てることからはじめます。

「(3)復旧に必要な経営資源の特定」では、中核活動・重要業務を目標復旧時間内に再開するために絶対に欠かせない資源(人・モノ・金・情報など)が何であるのかを特定します。

「(4)重要資源を確保するための計画」では、(3)で特定された重要資源を非常時にも確保するための対策を検討します。ここが狭義のBCPの核心とも言える部分です。対策としては、二重化(複数化)、在庫の積み増し、分散、アウトソーシング、外部調達、連携、部分的撤退などが考えられますが、中でも最も効果的かつ応用範囲が広いのが「代替」です。事務所が使用できなくなった場合に備えて、会員企業の通信環境が整った事務所・店舗を間借りしてテレワークを実施することをあらかじめ計画しておく、などの対策です(代替・複数化・連携)。

しかし、中には、1度失ってしまうと2度と戻らないものもあります。その場合は、二重、三重に保全を図らなければなりません。同友会にとって 最大の資源である会員もまたかけがえのない存在です。しかしこの場合の保全とは、災害などの被害ができるだけ生じないよう、各社においてBCP策定も含めた強靭化を進めることです。強靭な体質の企業づくりは、地域にとっても社員にとっても必要なことであると同時に同友会運動を継続する前提でもあり、同友会と事務局にとって最大の資源を守るただ1つの手立てでもあります。

4.BCPの運用(文書化・保守・教育・訓練など)

作成した防災計画、緊急対応計画、BCPは、文書化してハザードマップなどと一緒に適切に保管するとともに、いざという時にすぐに参照できるよう職員全員で共有しておく必要があります。また定期的な演習や訓練を通じて検証を繰り返し、PDCAによる継続的改善を図る必要があります。計画の矛盾や瑕疵(かし)を発見するためにも、机上シミュレーションや訓練の重要性を強調しています。

5.成長戦略としてのBCP

BCPの策定は、組織の問題点や弱みを可視化するプロセスでもあります。従来の活動を見直し、新たな活動についても検討していくべきものであるため、BCP策定は担当者任せにすべきではなく、リーダー自らがその先頭に立つ必要があります。

6.BCPを機能させるために

中核活動や重要業務を絞り込むことは、会のどこに最も高い価値を置くかを明確化することです。これらは同時に同友会のビジョンを描くことでもあり、企業で言うところの経営指針そのものです。

会員企業の強靭化なくして同友会組織の強靭化も事務局の強靭化もありません。そう考えると、同友会に今もっとも求められているのは、「会員企業の強靭化の意味をも含めた増強活動」でしょう。

事務局長ひとりだけの事務局のBCP実践事例【高知】

会員数が200名未満の高知同友会では、2016年に初めて南海地震に対してのBCP策定に、当時の代表理事と2人で高知県が主催する講習に参加し、取り組みました。

BCPを策定し、事務局をより安全な地域の物件に移転し、さらに事務局内の仕事の仕方や、データの保存方法など、費用がかからなくてもできるところは、改善しました。

新型コロナウイルス感染症拡大により、1人しかいない事務局が感染したらどうなるかという問題に直面。プロセスは図の通りです。

ポイントは3つです。(1)想定される被害状況と現状の把握、(2)最低限(最優先)の業務の洗い出し、(3)その業務を継続させる(行う)ための対応策と方法。

このような想定をしていたときに、その事務局長が手術のため1週間不在となる事態が発生しました。感染症に対してあらかじめ設定していた通り、役員が事務局の鍵を開け、提出しなければならない振替の書類を提出するなど、業務が滞ることなく進めることができました。

日常活動の強化と全国の連帯

阪神・淡路大震災や東日本大震災、西日本豪雨、台風被害など、同友会として数多の災害を経験し、それぞれの同友会の主体的努力と全国の連帯で乗り越えてきました。また、その中での会員や事務局の奮闘と全国への発信は内外の感動を呼び、同友会の存在を強く印象づけるものでもありました。

コロナ禍ですべての同友会が大きな影響を受けるなか、「1社もつぶさない」「雇用を守ろう」とのメッセージは、先の経験をした同友会から発信されたメッセージでもあります。

今回、この策定チームで議論する中で、大災害の経験をもとに地域における同友会、同友会における事務局の存在意義を考え、BCPに着手できていない同友会でも、緊急事態に備えられるようにと、『手引き』とし、気づきを得られる内容にまとめました。

ここではあらためて、日常の活動で会員企業の強靭化が図られることや会員・事務局との信頼関係をつくることが重要であることを確認することにもなりました。

全国の経験が「連帯」の精神でまとめられた内容でもあります。できることから着手して一歩ずつ進め改善していくことが求められます。

「中小企業家しんぶん」 2020年 10月 5日号より