資金の積み増しは6カ月以内が4割、資金対策不要も4割 新型コロナに関する金融対策【同友会景況調査(DOR)2020年7~9月期オプション調査より】

立教大学経済学部准教授・中同協企業環境研究センター委員 飯島 寛之

2020年4~6月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査では「新型コロナウイルス関連支援策活用」に関する調査が行われ、資金対策や金融関連の支援策利用が上位を占める結果になりました(9月5日号既報)。本調査でも資金繰りの余裕感が増したことが明らかになっており、会員企業が迅速な資金手当てを行ったことが推測されます。

では、こうした資金対策は4月の緊急事態宣言前後で違いがあったのでしょうか。また、先の見えない状況が続くなかで会員企業はどれほど資金確保を行ったのでしょうか。7~9月期の景況調査でのオプション調査では、「新型コロナに関する金融対策について」の調査を行いました(回答数1020件)。結果は以下の通りです。

緊急事態宣言前から 積極的な資金対策

資金対策は、緊急事態宣言の前後とも「政府系金融機関の融資利用の相談」、「支援策を利用した金融機関への新規融資の相談」、「民間金融機関の実質無利子融資利用の相談」が3割を超えました(図1)。会員企業が3月までに積極的な資金対策を行った理由の1つには、会長談話をはじめとする同友会の戦略的な情報発信があったからだと考えられます。

業績の変化と支援策利用の有無との関係をみると、業績が悪化した企業ほど複数の資金対策を行っています。なかでも「政府系金融機関の融資利用の相談」は、業況水準が良いとする企業(25%)と悪いとする企業(56%)との間で大きな差がありました。(図2)

資金積み増しは 6カ月以内で合計4割

では、不況の長期化が予測されるなかにあって、会員企業はどの程度の資金を積み増したのでしょうか。もっとも多かった回答は「行っていない」(38%)で、4割近くに上りました。とくに業種別ではサービス業の半数近くの会員企業(46%)が資金の積み増しを行わなかったようです(図3)。また、業況水準の良い企業ほど積み増しを行わなかった企業が多くなりました。

資金の積み増しを行ったなかでは「1~3カ月」(21%)と「4~6カ月」(20%)がほぼ同数となり、当面は既存の手元資金プラス6カ月以内の手当を行ったものと考えられます。ただし、「1年超」(12%)という企業も1割を超え、かなり長期にわたる備えを行った企業も多くありました。業況が良い(「やや良い」含む)企業の多くは1~3カ月、悪い(「やや悪い」含む)企業ほど4カ月以上の積み増しをした割合が多くなっています。(図4)

大不況には支援策を 通じた資金手当て

「大不況に備えた金融上の手当ては?」との設問には、「特に考えてない(これ以上の手当ては不要)」(36%)との回答が多くなりました。この割合は前述の設問であった「資金対策を行っていない」の結果とも整合的です。

金融上の手当てを考えていると回答した企業のなかでもっとも多かった「支援策を利用した追加借り入れ」(43%)は、第2位の「通常の追加借り入れ」(15%)を大きく上回っています(図5)。「支援策を利用した追加借り入れ」は業績が悪化した企業ほど高く利用されていることが明らかになっています。

キャッシュフローの プラス転化に向けて

最後に「2020年9月時点の営業キャッシュフロー」をたずねたところ、「プラス」の企業が39%、「マイナス」の企業が約29%となりました。特筆すべきは、「予測不可」と「把握していない」が合わせて1割程度あったことです。とくに業績の悪化した企業でこの割合が高くなっています。先の見えない環境でも、正確な予測・先行きを見据えることができるようキャッシュフローの把握に努めることが求められます。(図6)

今回の調査では、4割弱の企業が資金手当ての必要性を感じなかった一方、早い段階から複数の資金対策を実施してきた会員企業がいることが明らかになりました。その結果、資金繰りに窮する企業が少なかったと推測されますが、大不況下での売上高減少やキャッシュフローのマイナス状況が長期化すれば、返済負担が高まることになります。どこまで業績を回復できるかは自助努力にもよりますが、同友会としても潜在的なリスクを現実化させないための情報発信や運動を展開していく必要があります。

「中小企業家しんぶん」 2020年 11月 15日号より