【黒瀬直宏が迫る 中小企業を考える】第2回 競争の根幹は情報発見競争

NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

 「中小企業を考える」をテーマにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)の新連載。第2回目は「競争の根幹は情報発見競争」についてのレポートです。

 前回、「中小企業は大企業にない固有の発展性を内在させているが、その発現を妨げる固有の問題性も課せられている。そのため、中小企業は発展性と問題性の統一物になる」と述べました。今回からその説明に入ります。

市場競争とは何か

 「中小企業とは何か」を考えるには、「市場競争とは何か」にまでさかのぼる必要があります。企業同士はいろいろな点で競争していますが、根幹となるのは情報発見競争です。

 市場は社会の分業で生産された商品の供給と需要が出合う場ですが、分業は自然発生的ですから、昨日までの需要が今日はほかの製品で満たされているかもしれません。需要はあっても昨日までつけられていた価格が新技術の出現で今日は受け入れられないかもしれません。供給者が社会的に妥当と考えた価格で貨幣を差し出す需要者を見つけることが販売ですが、それは成功するとは限りません。商品は、売れなくては商品ではないが売れるとは限らず、販売は「商品の命がけの飛躍」(マルクス)なのです。

 企業は販売の不確実性を低下させるため、需要と技術に関する情報の発見に向かい、その情報に従って資本は投下されます。情報発見活動は1回限りの過程ではなく、情報発見は新たな製品や技術となって市場を変化させ、それが他企業の情報を不完全化し、情報発見活動をまた引き起す―という相互強制過程として永続し、企業の経営活動の起点であり続けます。ですから、情報発見活動こそが市場競争の根幹です。ハイエクという経済学者は、競争を競争なしには誰にも知られないような事実を発見する過程としましたが、競争の本質を適確に表現しています。

場面情報が重要

 企業の情報発見活動の中心は、経営活動中の出来事に基づく「その場その場で発生する情報」(場面情報)の獲得です。そうならざるをえないだけでなく、場面情報が販売の不確実性を減らすのに一番役立つからです。顧客の一言や行動から新たな需要に気づき、思いがけぬ製作の失敗から新たな加工法を思いつくというのが場面情報の例です。あるバッグメーカーの経営者はリュックサックの肩紐を押さえながら走っている人を見て、走っても肩紐がずれないよう肩紐が背中で交差するリュックサックを思いつきました。肩紐を押さえながら走っている人の姿は日々の断片的な事象の一つで、それ自体には意味はありません。ですが、単なる「断片」から感知した情報であるがゆえに、認識の飛躍による創造性があり、「新しいこと」を生み出します。このような、人の気づいていない新たな情報こそが販売の不確実性を減らすのに最も有効です。新聞からの情報は書いた人はすでに知っているし、読む人は皆知ります。だから、新聞にはやってはいけないことが書いてあると言った経営者がいました。ただ、場面情報はノーベル賞級の発見も生みますが、経営にとっては新しければ何でもよいわけではなく、市場のトレンドに沿っていないと販売は不確実となります。市場で形成される需要や技術の基本トレンドの周辺で「新しいこと」につながる場面情報の発見が情報発見競争の中心です。

場面情報発見活動は企業家活動

 企業家活動とは「新しいこと」を行うことです。「新しいこと」は場面情報から得られるため、場面情報発見活動は企業家活動と言い換えてもかまいません。市場競争とは企業家活動による競争なのです。企業家というとシュンペーターの「創造的破壊」が思い浮かびますが、企業家活動はそのような英雄的行為ではなく、基本トレンドの周辺で行われる「新しいこと」、その意味で人と少し違うことを行うことが企業家活動であり、市場競争の実相です。そして、中小企業はこの企業家活動に関しては大企業にない有利性を持っているのです。

「中小企業家しんぶん」 2021年 2月 5日号より