休廃業過去最多の中、事業再構築の手がかりを 2021年版中小企業白書

 「2021年版中小企業白書」は、新型コロナウイルス感染症が与えた影響や、危機を乗り越えるための企業の取り組みとして、事業の見直し、デジタル化、事業承継・M&Aに関する取り組みを調査・分析しています。

 「第1部 中小企業・小規模事業者の動向」では、コロナでマイナスの影響を受けている企業が7割を超えるなど厳しい状況にある中、倒産件数は低水準で 、政府系金融機関は前年比5割増しの貸出残高となるなど金融支援の拡大や、423万件5・5兆円規模の持続化給付金など各種支援策が功を奏しているとしています。

 事業活動への影響(ミクロ)として、感染症流行下においても、事業環境の変化に合わせ、新製品の開発や新事業分野への進出など柔軟な対応ができている企業ほど回復が早く、「変化を転機」と捉え、顧客のニーズや自社の強みに着目し、事業を見直すことも重要と指摘。今回の白書も事業再構築の事例を豊富に挙げており、ポストコロナのヒントが満載です。

 一方で、財務体質は自己資本比率が上がってきているものの(中規模42・8%、小規模17・1%)、損益分岐点比率が小企業ほど高く(92・7%)、売上高の急激な変化に弱い傾向にあること。財務数値を基に目標を設定し「売上高が3割落ちても赤字に転落しない収益構造」にしてきた事例も参考になります。

 「第2部 危機を乗り越える力」の「事業継続力と競争力を高めるデジタル化」では、デジタル化に対する意識が高まり、働き方改革や効率化、テレワークの推進など事業継続力強化の観点で取り組む企業が多く、他方でアナログな文化・価値観の定着などといった事業方針上の課題を指摘。「事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用」の項では、経営者の高齢化(平均年齢62歳、2019年)の進展などに加え、感染症の影響もあり、2020年の休廃業・解散件数は過去最多(4万9698件)。一方、その中には売上高当期純利益率が5%以上の企業も25%を超えており、事業継承が社会問題にもなっています。

 事業承継後に販路開拓や経営理念の再構築など新たなチャレンジをする企業が多く、その1つであるM&Aへのイメージは向上し、件数は1234件と増加。売買双方が事業規模拡大を主な目的としている一方、売り手側は雇用維持を目的としている割合が73%と最も高く、次いで新事業展開・異業種への参入が49%。M&A実施後は譲渡企業の従業員の雇用は100%継続されている企業が82%と多くなっていますが、これが何年続くのか疑問は残ります。

 今回の白書は業種別など55の事例は参考になり、事業再構築に向けたヒントを得るものとしても活用できます。

(穂)

「中小企業家しんぶん」 2021年 6月 15日号より