連載「価値創造へ~経営指針を外部発信」第1回 経済産業省「ロカベン」と「経営指針」

ローカルベンチマークと経営デザインシート

 コロナ禍で、経営指針の見直しとともに経営支援や資金調達を受ける機会が増え、自社の現状や将来の事業計画について、金融機関や外部機関などに説明することも多くなっています。政府は中小企業支援の一環として、経済産業省「ローカルベンチマーク」(以下、ロカベン)や内閣・知的財産戦略本部「経営デザインシート」の活用を推進しています。自社の経営指針を生かし、自社の現状分析にはロカベン、将来の経営ビジョンの可視化には「経営デザインシート」を共通言語”として活用することで、金融機関や外部機関との情報の非対称性を乗り越え、外部発信することで相互の関係強化にもつながります。

 本連載では「経営指針の外部発信」として、これらの活用の意義とその実践事例を紹介します。本連載にあたっては一般社団法人日本金融人材育成協会会長の森俊彦氏の協力をいただきました。

健康診断と対話のツール

 経済産業省が推進するロカベンは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)としてつくられ、経営者と金融機関、支援機関等が、対話を通じて現状や課題を理解し、経営改善に向けた取り組みを促す手段として活用が推進されています。

 政府が地方公共団体と地方創生に取り組むための5カ年計画「まち・ひと・しごと創生総合戦略」には金融機関によるロカベン活用割合がKPI(重要業績評価指標)として設定されています。

 また、経済産業省の金融機関向け「企業の多様な資金調達手法に関する実態調査」では、地銀、第2地銀、信金での活用度合いが5割と高く、活用目的は、「事業性評価の入口として活用している」81%、「企業との対話ツール」73%となっています。

6つの指標、業務フロー・商流と4つの視点

 ロカベンは3枚のシートからなり、「Ⅰ財務分析」と「Ⅱ非財務」「Ⅲまとめ」で構成され、Ⅱはさらに「a業務フロー」「b商流」「c4つ視点」があります。

 経営指針(経営理念、10年ビジョン、経営方針、経営計画)を作成した経営者であれば、経営指針と決算書や指針をつくる際に活用したシート、「企業変革支援プログラムステップ2」の「企業プロフィールシート」などを書き写すだけで完成します。

 ロカベンの「Ⅰ財務分析」は、以下の6つの指標による分析です。

(1)売上高増加率売上持続性
(2)営業利益率収益性
(3)労働生産性生産性
(4)EBITDA有利子負債倍率健全性
(5)営業運転資本回転期間効率性
(6)自己資本比率安全性

 「Ⅱ非財務」は重要な業務フローと商流を可視化し、それを踏まえて以下の4つの視点に整理する内容です。

(1)経営者への着目
(2)事業への着目
(3)関係者への着目
(4)内部管理体制への着目

 経営指針と同じく、考える範囲は経営全般ですが、財務分析を手元に置いて進めると、ほかとの関係性が明確になります。

 「未来投資会議」の資料では、コロナ禍で「企業戦略を見直す」企業が71%、見直しの内容のトップは「持続可能性を重視した経営への転換」69%となっています。見直した経営指針の外部発信に際しては、経営指針とともにロカベンの活用が有効です。

中小企業家同友会全国協議会 政策広報局長 平田美穂

「中小企業家しんぶん」 2021年 8月 15日号より