中小企業における経済的社会的役割の自覚を 中同協・企業環境研究センター公開研究会

7月30日、「中小企業と『生産性』に関する議論をめぐって」と題して中同協・企業環境研究センターの7月拡大例会がオンラインで行われました。公開研究会として開催され、研究者や会員、事務局など175名が参加しました。

植田浩史氏(慶應義塾大学経済学部教授)から今回の研究会開催のねらいについて説明があり、渡邉俊三氏(名城大学名誉教授)による基調報告では、デービッド・アトキンソン氏の主張に関連した議論の紹介と問題点、「生産性」や「最低賃金」、「賃上げ」などに触れ、中小企業の役割や企業の目的について指摘がありました。

続く3名の研究者による報告では、大前智文氏(駒澤大学経済学部准教授)からは成長戦略会議の動きなどから、中小企業観が更新され中小企業政策の転換につながる可能性があり、あらゆる場面で分断化が進む懸念が示されました。

大貝健二氏(北海学園大学経済学部准教授)からは中小企業の役割の一例として北海道での事例を紹介、中小企業は生産性の実現だけで評価されるような存在ではなく、地域の命を守ることにつながる役割を担っているという報告がありました。

植田浩史氏からは、高度成長期の時代に展開された二重構造論との共通点と相違点を紹介しながら、中小企業を生産性のみで評価することは論外だが、無視していいわけではない。中小企業の経済的社会的な役割についての認識を広げ、経営において「社会性」「科学性」「人間性」の3つを統一、あるいはレベルアップさせていくことが必要であり、この3つを統一した自覚的中小企業の経営実践とその広がりが、アトキンソン氏たちの生産性の議論に対する具体的克服につながっていくと経営実践への期待が寄せられました。

参加者からは「生産性や収益性、納税額だけにとらわれない、社会的機能としての中小企業の存在意義とその役割を再確認しました」「中小企業が社会に必要な存在であるとの自覚と同時に、いっそうの生産性の向上を始めとする学びも大切なのでは」などの声がありました。

最後に和田耕治氏(日本大学工学部教授、中同協企業環境研究センター副座長)から全体のまとめがあり、終了しました。

「中小企業家しんぶん」 2021年 9月 5日号より