【黒瀬直宏が迫る 中小企業を考える】第15回(最終回) 中小企業の多様性 NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

 「中小企業を考える」をテーマにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)の連載。第15回(最終回)は「中小企業の多様性」についてのレポートです。

中小企業の本質の現象としての多様性

 本連載第11~14回で、中小企業を「企業家的中小企業」「半企業家的中小企業」「停滞中小企業」に分類し、その特徴を明らかにしました。私は連載初回で述べたように、「中小企業は大企業にない固有の発展性を内在させているが、その発現を妨げる固有の問題性も課せられている。そのため、中小企業は発展性と問題性の統一物になる」と考えています。中小企業の固有の発展性とは企業家活動に関する有利性です。固有の問題性とは大企業が引き起こす収奪問題などの中小企業問題です。中小企業の「発展性と問題性の統一物」という本質は、太陽光がプリズムを通じて分光するように、競争を通じて、中小企業の3タイプへの分化、つまり、中小企業の発展に関する多様性として現れるのです。

高い利益率も低い利益率も中小企業の方が多い

 中小企業の多様性は図1でもわかります。大企業では売上高利益率▲10%~10%台に集中していますが、中小企業では分散し、低利益率の企業の割合も、高利益率の企業の割合も大企業より高くなっています。

 図2はアメリカの戦前の中小企業に関するデータです。「全体」では規模が大きくなるにつれ資本利潤率が高まるものの、「黒字企業」については規模が小さいほど利潤率が高く、規模が小さくなると利潤率の高い企業の割合が増えることを示唆しています。同時に、「赤字企業」では規模が小さくなるにつれマイナスの利潤率が高くなっており、規模が小さくなるほど利潤率の低い企業の割合も増えているとみなせます。

 このように、国と時代を越えて発展に関する多様性が中小企業の特徴なのです。

 このため、中小企業は切り取り方により発展性に満ちた企業も、問題性に満ちた企業も現れます。円錐を底面に垂直な平面で切断すると双曲線が、母線に平行な平面で切断すると放物線が、底面に平行でない平面で切断すると楕円が得られるようなものです。しかし、中小企業は多様ですが「ばらばら」ではありません。円錐が多様な2次曲線の統一物であるように、多様でも中小企業は「発展性と問題性の統一物」という本質を持つ一体物なのです。

アトキンソン説の誤り

 連載初回で触れたデーヴィッド・アトキンソン氏は、「規模の経済性」が働かないからとして、中小企業を一律に問題性に満ちた、前記の分類でいえば「停滞中小企業」と決めつけています。これはとんでもない誤った見方です。「発展性」も「問題性」も共に中小企業の本質として統一理解するのが正しい見方です(「複眼的中小企業論」)。

 また、中小企業の問題性を「規模の経済性」が働かないことに求めるのも誤りです。「規模の経済性」が働かなくてもその分野が国民経済にとって必要ならば価格の調整で労働生産性は他の分野と同レベルになるからです。そうならずに、平均すると中小企業の労働生産性が大企業より低いのは、大企業セクターが販売・購買寡占の地位にあるため価格関係を自己に有利に、中小企業に不利にする力を持っているからです。この「収奪問題」のほか「経営資源問題」「市場問題」という大企業セクターが中小企業に課す中小企業問題が束になって中小企業の労働生産性を低めます。

 中小企業に問題性をもたらすのは「規模の経済性」のような物理的作用ではなく、企業間の関係です。物理的作用は止めようがありませんが関係は変えることができます。「複眼的中小企業論」は中小企業問題を解消すれば中小企業の発展性が花開くことを主張するものでもあります。

 以上で「中小企業を考える」の理論編は終わりとします。

「中小企業家しんぶん」 2021年 9月 15日号より