変化の先を見据えた経営課題の設定が明るい未来を築くカギ~デジタル化や中核人材の採用・育成などの長期的な視点を 立教大学経済学部准教授 菊池 航氏

【中小企業のウィズコロナ対策】2021年10~12月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査より

 2021年10~12月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査では「中小企業のウィズコロナを見据えた対策」に関する調査を行いました(回答数882件)。その結果について、中同協・企業環境研究センター委員で立教大学経済学部准教授の菊池航氏に分析・執筆していただきました。

 新型コロナウイルス感染症は、中小企業にどのような影響を与えているのでしょうか。そして、中小企業はどのような対策を実施しているのでしょうか。現在直面している不況は、(1)景況がバブル崩壊やリーマンショックと同水準まで悪化したこと、(2)景況の悪化速度が速かったこと、(3)新型コロナウイルス感染症の影響以前に、米中貿易摩擦、消費税増税によって景況が落ちていたこと、(4)全業種が一気に落ち込んだことに特徴があります(植田浩史「DORの眼:コロナ大不況と中小企業」『同友会景況調査報告(DOR)』2020年7~9月期)。ここでは、2021年10~12月期に実施した新型コロナウイルス感染症に関するオプション調査の結果を概観することで、コロナ禍の中小企業経営の一端を紹介します。

「やや悪い」と「悪い」で5割弱

 まず、コロナ禍前(2019年)と比較して、現在の中小企業がどのような状況にあるのかを整理します(図1)。全体の傾向としては、「良い」あるいは「やや良い」と回答した企業の割合は約25%にとどまり、「やや悪い」あるいは「悪い」と回答した企業は約44%に及んでいます。コロナ禍前にすでに全業種の景況が落ちていたことを考慮すると、多くの中小企業が厳しい状況にあることが推察されます。4業種別(建設業、製造業、流通・商業、サービス業)でみると、「やや悪い」あるいは「悪い」と回答した企業が最も多かったのは製造業でした。2021年10~12月期のDORによれば、製造業を含む多くの中小企業が原材料の価格高騰の影響を受けています。2021年12月27日、政府は、エネルギーコストや原材料価格の上昇が中小企業等に与える影響を懸念し、価格転嫁円滑化スキームを創設することを発表しました。政府による強力な取り組みが期待されます。

 続いて、中小企業が今後の景気をどのように考えているのかを見てみましょう。図2は、1年後(2022年)の見込みです。全体の傾向としては、「良い」あるいは「やや良い」と回答した企業の割合は約28%、「そこそこ」は約48%、「やや悪い」あるいは「悪い」と回答した企業は約25%となりました。6地域別(北海道・東北、関東、北陸・中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄)にみると北陸・中部の見込みがやや明るく、業種別にみるとサービス業において「良い」・「やや良い」と回答した企業が多い傾向にありました。2021年10月ごろから新型コロナウイルス感染症の感染者数が減少したこと、ワクチン2回接種を終えた国民の割合が7割を突破したことなどもあり、宿泊業や飲食業などの景気の見込みがよかったと考えられます。

対策を実施した企業は約5割

 それでは、どれだけの中小企業がウィズコロナを見据えて対策を実施してきたのでしょうか(図3)。全体の傾向としては、「対策し、実施した」と回答した企業の割合は約51%であり、「検討したが、実施していない」の約7%、「検討中」の約25%を含めると、8割を超える中小企業が対策を検討してきました。規模別にみると、規模が大きくなるほど対策を実施した企業の割合が多くなっています。5人未満の零細規模における対策の実施率は約29%にとどまっており、規模の小さい中小企業を対象とした実態調査が期待されます。

雇用を守りながら競争力の再構築へ

 ウィズコロナを見据えた具体的な対策とは、どのようなものだったのでしょうか。図4は、中小企業が実施した事業活動面の対策です。上位5つの対策は、「情勢・市場動向の情報収集」、「各種支援策の情報収集、活用」、「販路の新規開拓・拡大」、「営業・販売のしくみの見直し」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」でした。経営環境の変化を把握し、政策を活用しながら、コロナによる環境変化に対応しようとしてきたと考えられます。業種別の特徴としては、建設業は「情勢・市場動向の情報収集」、製造業は「設備投資計画の見直し」、流通・商業は「営業・販売のしくみの見直し」、サービス業は「既存商品・サービスの見直し」を実施した企業が多い傾向にありました。さまざまな計画が見直される一方で、新事業や新商品開発が進められており、競争力の再構築を図っている中小企業が少なくありません。

 続いて、ウィズコロナを見据えた人事戦略面の対策を見ましょう(図5)。上位5つの対策は、「社員教育・能力開発」、「3密回避などの職場の感染対策」、「社員の健康管理」、「幹部育成」、「社内会議などのオンライン化」でした。業種別の特徴としては、建設業は「採用の強化」、製造業は「営業活動のオンライン化」、流通・商業は「テレワーク環境整備・強化」、サービス業は「社員教育・能力開発」を実施した企業が多い傾向にありました。社内会議や営業活動のオンライン化を推進するだけでなく、より長期的な視点から社員教育や幹部育成など人材育成に力を注いできたと考えられます。なお「少人数化」という対策を実施した企業は1割未満であり、コロナ禍においても中小企業が雇用を守ってきたことが推察されます。

対策を実施した企業ほど見込みは明るい

 最後に、ウィズコロナを見据えた対策の実施状況別に、1年後の経営成果の見込みを見てみましょう(図6)。「対策し、実施した」企業のほうが、「検討したが、実施していない」企業や「検討中」の企業よりも、明るい見通しを持っていることがわかります。具体的な対策別にみると、1年後の見込みが「良い」と回答した企業は、ほかの回答をした企業と比べて、事業活動面の対策としては「DX化」など、人事戦略面の対策としては「幹部育成」などを実施した傾向にありました。

 コロナ大不況という危機をどのように乗り越えていくことができるのでしょうか。今回のオプション調査からは、ウィズコロナを見据えた対策を講じた中小企業が、対策を講じていない中小企業と比べて、明るい見通しを持っている傾向にあることがわかりました。また、ウィズコロナの時代に明るい将来展望を持っている中小企業とは、デジタル化を通じた生産性の向上に踏み出そうとしていること、コロナ禍においても人材育成を止めていないことなどがうかがえました。

 厳しい状況が続いていますが、急速に発展している新技術を自社でどのように活用するか、人口減少社会において企業の中核を担う人材をどのように採用・育成するか、といった長期的な経営課題を考えることの重要性が示唆された調査だったのではないかと考えています。

「中小企業家しんぶん」 2022年 2月 15日号より