【あっ!こんな会社あったんだ】ブランディング化 建物のエネルギーシフトから社員が描く想(おも)いのエネルギーシフトへ 信幸プロテック(株) 取締役会長 村松 幸雄氏・専務取締役 村松 直子氏(岩手)

 企画「あっこんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は広報委員会の報告から、信幸プロテック(株)の村松幸雄取締役会長と村松直子専務取締役(岩手同友会会員)の実践を紹介します。

 信幸プロテック(株)では用地購入から10年、ようやく新社屋を完成させることができました。旧社屋は45年が経過したワンフロアで、とにかく密集度が高く、新入社員を採用するにも座り切れないほど手狭で、従業員満足度も低い状態でした。しかし、創業当時からの思い出深い社屋で、地域の方が寄り合う場所でもあります。両親2人で立ち上げてきた思い出の場所でもある場所を今後どう変えていくかが構想の始まりでした。

ブランディングとの出合い

 そんな中、東京のスターブランド(株)、岩手で社屋ブランディングから建設まで一貫してやっているジュークアンリミテッド(株)の2社の方に出会い、ブランディングとはファンづくりであること、お客様も情報も資金も、外側ではなく会社に向かってくるようにすることがブランド戦略だと教えられました。そこで、社員の中でブランディング委員会をつくり、会社の歴史から、めざすゴール、スローガンなど順を追って、さまざまなことを社員たちと話し合ってきました。

 最初に話し合ったのが会社の歴史とDNAです。当社は創業50年を迎えようとしていますが、社員が幸福でないと会社がよくならないこと、東日本大震災なども経験し、困っている人がいたら助けたいと一貫して思ってきたことの認識を深めました。また当初から新しいものを取り入れて活用していく風土があったことも確認しました。

 そこから、困った人を助けながら、世の中の役に立ち自分たちも向上していく「レスキュー隊」のイメージ像を追いつつも、最終的に会長が最初に描いた「設備の総合病院」というゴールをめざすスローガンが誕生しました。レスキュー隊のイメージからユニフォームを刷新し、名刺や社内報なども刷新しながらブランディング、世界観を1つにして、自分たちの強みを訴えやすくするにはどうしたらいいかを一貫して考え続けてきました。

3つのミッション

 ブランディング委員会で取り組む中で、新社屋になったとき、私たちはどんな社屋をめざすかという話になりました。地域の方やお客様や取引先の方、いろんな方との垣根を越えていこうと話し合い、3つのミッションを社屋建設の中で成し遂げていこうということになりました。

 1つ目は「人が集まる社屋をつくる」です。こちらから外に出るのでなく、顧客、取引先、学生などいろんな方がここに立ち寄りたくなるような状態をつくりたいと思っていました。

 2つ目は「今いるスタッフがずっとここで働きたいと思う」こと。勉強できる、活躍できる、成長できるなど、いろんな要素を含む場所として機能することで、ずっとここにいたい、働きたいと思ってくれるものをめざしました。

 3つ目は「学びを加速する場所」。社屋の中に勉強する場をつくることよって仕事に生かし、またそれを人に教えることで全体のレベルが上がり、もっと学びたくなるという循環するような場所になればいいと思っています。

 さらに、実際の建設に落とし込むために、ブランディング委員会のメンバーとは別に、いろんな部門から集まって建設委員会を立ち上げました。専門知識を生かしながら、各部門の要望を集め、後に新社屋の目的や過程を次世代の社員に伝えられる仲間になっていってほしいという願いからです。完成時の検査も同チームで行い、皆でこの場所が自分たちのイメージ通り仕上がっているか、確認しながら完成に至りました。

「超(越)える」6つのコンセプト

 ブランディングの中で「超(越)える」オフィスを描いてきました。勉強することで自分を「超える」。お客様や地域との垣根を「越える」、部門の垣根を「越える」。既存の価値観を「超える」。災害緊急事態を乗り「越える」。地球の限界を「超えない」と、6つのコンセプトを考えました。

 1番目、自分を「超える」は、勉強や資格試験のためのスペースの設置です。面白い取り組みとしてトイレの中にブランディング委員会が一人ひとり、自分の思いをメッセージにしました。1人になった時などにメッセージが見えるよう、壁や鏡に描きました。

 2番目がお客様や地域との垣根を「越える」。1階はオープンスペースを多くとってお客様を呼び込めるような空間にしました。お客様や取引先と気軽に打ち合わせや地域の親子向けイベントのスペースなどに利用できる空間を作りました。

 3番目は2階をワンフロアにし、全員の顔を見渡せます。部門の垣根を超えるということです。

 4番目は既存の価値観を「超える」。当社は設備業ですが、ITを活用してお客さま向けのオンラインセミナーを開くなど、既存の業界の価値観も越えていこうと意識しています。

 5番目が災害緊急事態を乗り「越える」。社内に災害時の食料備蓄や充電ステーション、浄化装置などを備え、社員が安全に過ごせる環境をつくっています。

 最後の6番目は、地球の限界を「超えない」。当社は空調設備などを取り扱っており、エアコンやLED照明など、環境対策ができるものがたくさんあります。積極的に紹介して関わり、環境負荷に配慮した取り組みを進めています。

 ブランディングにしても新社屋建設にしても、非常に多くの社員に関わってもらって、社員の働きがいやめざすところ、私たちが歩んできた歴史を一緒に考えてきたことが大きな特徴です。その中で、過去のことばかりではなく、会社や地域がどうなっていったらよいかを社員と考えるよい時間が設けられました。今後も継続的にいろんな社員の力を生かし巻き込みながら、新社屋を活用し、地域のために役立てるような空間をめざしていきます。

会社概要

設立:1987年
事業内容:空調設備機器、住宅設備保守販売
従業員数:39名(2021年6月現在)
所在地:岩手県紫波郡矢巾町大字広宮沢-303
URL:https://www.srs.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2022年 4月 5日号より