なぜ大谷が生まれたのか~二刀流のベーブ・ルースの記録越えによせて

 今年は東北の風が吹いているよう。高校野球です。今年の全国高校野球選手権大会(甲子園)で仙台育英高校が東北勢初優勝を遂げました。長い間優勝から見放されていた東北。深紅の大優勝旗がようやく白河の関を越えました。

 そういえば、ピッチャーとして著しい成績を上げている佐々木朗希や二刀流で華々しい結果を残している大谷翔平も東北でした。しかし、東北にこだわらずに見れば、アメリカで一番著名な日本人は誰か?と問われたら今では「大谷翔平」を思い浮かべます。

 今や大谷翔平選手は打者として、投手として別格の実績を残し、メジャーリーグの顔という位置づけを揺るぎないものにしています。

 大谷選手のバッティングは、従来の日本で「常識」とされている打ち方とまるで違います。プロの名選手といわれる人たちの共通項は「ヘッドを走らせる」。ヘッドの重さを意識して手首を返し、インパクトの瞬間のヘッドスピードを最速にするというものです。

 ところが、大谷選手ら現在のメジャーリーグのスラッガーはそんな打ち方はしないそうです。今の主流は「手首を返さずにバットの面をボールの軌道にできるだけ長く向けたまま振る」。インパクトの瞬間の最高速度でなく、ミートポイントをできるだけ平均速度を上げます。早く動くボールに対応することができるそうです。

 手首を返さずにスイングの平均速度を上げるには、それを可能にする筋力が必要です。要するに、選手のフィジカルが強くなったことから新しい技術が生まれ、バッティングが進化したのです。大谷選手の活躍には、「手首を返さないスイング」というパラダイムシフトといってもいいほどの「革命」が背景にあったのです(「なぜ大谷が生まれたのか」日本経済新聞、8月6日夕刊)。

 今期はどこまで成績を伸ばすのか。野球解説者の江川卓氏は、最終成績は2桁勝利に加え、本塁打は30本台と予想。ほぼ達成の見込みです。「問題はその先。投球に力を入れると打撃が少し落ちて、打撃に力を入れると投球が少し落ちる。どこで折り合いを付けていくかが、すごく難しくなると思う」(JIJI.COM)。

 あのベーブ・ルースの二刀流は、実質的にメジャーリーグ5年目の1918年からの2年間だったとされます。投打両立の負担がいかに大きかったか。

 これから、大谷選手はさらなる進化を遂げていくべきか。望むのは、投打にハイレベルな姿。それはファンを魅了し、子供たちの憧れにもなります。「僕としては、あと7~8年は続けてほしい。『この年は投球がよかった』『打撃がよかったシーズンはこっちだね』とか言いながら、合計で10年くらい(二刀流を)続けられると素晴らしい。子どもたちのさらなる目標にもなれると思っている」(江川卓氏談)。いいですね。

 日本人が持つ可能性について世界とフィジカルで肩を並べたとき、スポーツを豊かに語り合う機会を提供してくれています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2022年 9月 15日号より