人を生かす経営の総合実践をめざして~人材の育成と採用 (有)メタルワーク福山 代表取締役 大植 栄氏(広島)

【あっ!こんな会社あったんだ】障害者雇用

企画「あっこんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「障害者雇用」をテーマに、大植栄氏((有)メタルワーク福山代表取締役、広島同友会会員)の実践を紹介します。

 わが社は金属製品の製造・加工を行っており、社員数35名のうち手帳を持っている社員を3名雇用しています。

 障害者雇用は、養護学校の先生に頼まれて同情心から受け入れたことがスタートでした。最初に雇用した方は知的障害でしたが、私は知的障害の特性を知りませんでした。明確な作業指示を出せずに、結局1年で辞めてしまいました。次に、精神障害と発達障害を抱えている方を雇用しましたが、社内でコミュニケーションが取れなかったこともあって辞めてしまいました。私が障害の特性を知らなかったばかりに社員が辞めてしまった、という経験です。

 その後、広島同友会福山支部のバリアフリー委員会の委員長になりました。その時に、まず「障害とは何か」という勉強会を行い、障害の特性を理解できるようになりました。経営者はその人の「袋」の形にあった指示を出さないといけません。その人の袋の大きさを理解し、できる量・必要な分の仕事を与えることです。袋が立派でも形が不安定な人や、袋が一部破れている人、袋自体は立派でも別のところに入口がある人もいます。その人の袋の形をイメージしながら、その人に合った仕事を与える「適材適所」と「やる気スイッチ」を押してあげるのがわれわれ経営者の役割です。

広島同友会障害者問題委員会の取り組み

 県内の特別支援学校と連携して、先生に中小企業の現場を見てもらう「企業訪問見学バスツアー」に取り組んでいます。今年は県内5校と開催しました。生徒の受け入れ先探しではなく、企業と学校の相互理解を目的にしています。先生に中小企業とその仕事を知ってもらい、生徒が将来そこで働いている姿をイメージしてもらうこと、企業側は地域の学校や障害者が抱えている問題を学び、会社を見てもらうことで「この会社だったらうちの生徒にも仕事ができる」と先生に思ってもらえれば職場実習の受け入れにつながります。実習を受け入れるとしっかりと仕事ができることが分かりますので、マッチングして採用につながると会社の戦力になります。社会貢献というレベルではなく、その子たちがいかに会社の戦力になるかということです。

知らないから見える壁、知ることでなくなる壁

 同じ価値観、同じ能力、同じ考え方をする人間は存在しません。自立心を高めたいと願いながら、障害を抱えているがゆえに発揮できないもどかしさがあるならば、その手助けをするのは経営者の責任です。人は周囲の理解と支えによって無限に力を発揮できます。そのためには「適材適所」「やる気スイッチ」です。経営者の「知らない」は罪になります。私が過去に失敗したのは、障害という特性を知らずに仕事をさせていたからです。

 中小企業家だからできることは、1社1人の雇用と関わることでの「人を生かす経営」の総合実践です。その際、「絶対にこの子をウチの会社の戦力にするんだ」という覚悟がなければその子は育てられません。「共に育つ」とは、社員に求めるものではなく、社員を幸せにするという「経営者の覚悟」です。

みんなが働けるよい会社をめざして

 わが社では、昨年4月に特別支援学校の卒業生を採用しました。3日ほど職場実習をしてもらい、「こういう仕事をしたかった。いまの仕事が大好きです」と言ってくれました。現在は溶接や仕上げなどを頑張ってくれています。また、知り合いに引きこもりの方がいました。その家族と子供に関わると彼は進学を希望し引きこもり生活から脱却し通信教育の高校に入学しました。すると彼は1日も休まず、遅刻もせずに通うようになりました。その後わが社で職場実習をすると「どうしてもこの会社で働きたい」と言ってくれて、内定を出しました。きちんとあいさつもできるし、社会性もマナーもある人です。

 広島同友会の障害者問題委員会では「知ることから始めよう」「誰もが安心して暮らせ、夢の持てる地域づくりを」をテーマに取り組んでいます。そしてわが社は「みんなが働けるよい会社をめざして」をテーマに、障害者問題委員会で勉強しながら、社員が満足できるような会社にしていきたいと思います。

(2022年度第1回中同協障害者問題委員会実践報告より)

会社概要

創業:1972年
資本金:500万円
事業内容:金属製品製造業・食品加工製造ライン板金・産業機械板金
従業員数:35名
URL:http://www.metalwork-f.com/

「中小企業家しんぶん」 2022年 12月 5日号より