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シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年1月15日号より

シリーズ4

日銀内部の戸惑い


矛盾する日銀の「量的緩和政策」

 これまで都市銀行の不良債権処理の実態や金融庁の検査等について紹介し、これらが中小企業金融に与えている影響を見てきました。

 金融庁の検査とはまた違った形で行われているのが日本銀行(日銀)の考査です。「不良債権の処理は金融システムを強化していくための重要な課題」(速水総裁)とする日銀は、昨年からの考査では、特に大手15行について、不良債権処理の促進や株価リスクへの対応、収益力強化など克服すべき経営課題について、内外市場の信認の早期回復につながるような、従来以上の踏み込んだ対応を求めていくとしています。

 一方で、日銀は12月19日に開いた金融政策決定会合で、金融の量的緩和策を拡大することを決定。金融機関が日銀に預ける当座預金の残高目標を「6兆円を上回る」から「10〜15兆円程度」に引き上げ、長期国債の買い入れ額も月額6000億円から8000億円に増額しました。

 大手企業の相次ぐ破綻(はたん)に伴う信用リスクの拡大、これに伴う金融システムの動揺防止等が主な狙いですが、昨年2月から続く金融緩和策で手は打ち尽くしており、今回の措置は実体経済への影響はほとんどないとみられています。

 一般的に利子のつかない当座預金に資金を寝かせるよりは、企業への貸し出しで利息を得られる方がよいように思われますが、実際は、信用リスクをとってまで企業に貸し出しを行うよりは、日銀の当座預金に寝かしていた方が安全との考え方が強く、現状での「量的緩和」は、中小企業への貸し出しを増やすことに繋がっていないのが現状です。

 実際、速水総裁は10月の参議院財政金融委員会で、銀行貸し出しが45カ月も続いて減少している事実を挙げ、銀行の「本当の意味での信用仲介機能というものが果たされていない」、それは企業の新規需要がなく、過剰債務に苦しみ、構造調整圧力もあって前向きな企業活動が積極化していかない、先行きの不透明感が家計の消費を活発化させにくいから、と答弁しています。

日銀内部の戸惑い

 11月から始まった日銀の考査では特に各行のリスク管理に注目。日銀が金融庁などと研究し発表した「金融検査マニュアル」を考査のベースに置き、自己査定部分の債権再評価とともに、不良債権に対する貸倒引当金が十分に積まれているか、財務体質の改善強化指導に力を入れています。

 日銀の担当者は「これ(不良債権処理)が、今最も有効な手段なのかということに対して、内部もゆれているというのが現実です。中小企業の部分を不良債権として処理することが果たして将来の日本経済にプラスになるか、私自身大いに疑問のあるところです。マイカルのような大企業の債権が単なる要注意先として扱われ、十分な引き当てもされずに、銀行自身が安易に次々貸し出しをしてきたことこそ問題。また銀行経営者が有限責任の範囲でしかその問題を捉えておらず、銀行経営そのものが持つ問題は根が深い」と話しています。

 しかし、銀行業全体が長期にわたって収益低迷が続き、「構造不況業種」とさえ言われていることに対し、「金融機関がリスク管理を確実に行い、格付けした相手先ごとに細かく金利等を設定し、引当をしていけるような銀行になる必要があります。今の日本はオーバーバンキング、銀行の数が多すぎるという現状があり、不良債権処理を進める中で金融再編を促進し、長い目で見た収益性の高い(欧米銀並みの預貸利ざやが確保できる)金融機関をめざしていく必要があるのです」とも話しています。

 構造改革で量的緩和政策を政府から強制される日銀、その苦悩が増してきているようです。

(つづく)

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