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シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年3月5日号より

シリーズ9

公的資金投入より産業の育成を

見直される地域金融機関の役割・信金


 ペイオフ解禁まであと1カ月をきりました。2月27日の経済財政諮問会議では大手行の特別検査結果の公表とともに、金融危機の恐れがある場合は、公的資金の強制注入もありうることが報告されています。

 本シリーズで不良債権最終処理の実態を追う中で、金融庁の検査マニュアルによる一律査定の矛盾、オーバーバンキング論(銀行の過剰)が、金融機関の財務体質の強化をねらった金融機関の再編(淘汰・合併)を後押しし、地域金融機関の役割をないがしろにしていることなどを紹介してきました。

 中小企業にとって地域をともに考え活性化を図っていくとき、地域金融機関は大切なパートナーとなります。

 今回も前回に引き続き、地域金融機関の典型とも言える信用金庫を取り上げ、その経営スタンスと現在行われている金融行政の矛盾について、伊達信用金庫の楽木恭一理事長に話を聞きました。

 「いま、要管理先*に融資をすることは、その後結果として破綻懸念先以下となった場合、金融機関の経営者としてのモラルまで問われるような状況です」と話すのは、北海道西胆振地方を中心に、14の営業拠点を持つ、伊達信用金庫理事長の楽木恭一氏です。

有珠山噴火からの復興に力

 伊達信金は2000年の有珠山噴火の後遺症と長引く不況で苦しむこの地域に対し、「こういうときこそ地域のために蓄えを使おう」と、市や町、商工会議所などと協力して国に働きかけ「有珠山噴火災害中小企業返済対策特別資金融資」制度を創設。市町村のリスク負担で利率1・3%以内、融資期間10年以内(据え置き3年以内)の低利、長期資金を貸し付け、一般の金融機関から借りている資金の返済に充当しています。

 債務者の経営再建や支援を目的に、伊達信金が元本の返済を猶予した貸出条件緩和債権は2000年度末で52億円。しかし、これらの債権は「要注意先」とみなされ、被災企業の担保価値も目減りしていることから、伊達信金のリスクは非常に高いものになりました。それにもかかわらず、地元の支援もあり、自己資本比率は現在10%以上をキープしています。

信用金庫法第1条が経営方針

 楽木理事長が経営方針とうたう信用金庫法第1条(目的)「この法律は、国民大衆のために金融の円滑化を図り、その貯蓄の増強に資するため、協同組織による信用金庫の制度を確立し、金融行政の公共性にかんがみ、その監督の適正を期するとともに信用の維持と預金者等の保護に資することを目的とする」からすれば、こういった取り組みも「市場原理一辺倒では果たし得ない社会的使命を持つ信用金庫だからこそ」(楽木氏)できることといえます。

金融が経済の主役か?

 マスコミも含めた「大手行への公的資金の強制注入」の大合唱の中で、楽木氏は「金融機関は今も昔も経済の『従』の部分であり、経済の基本は生産などであるはずです。ところが、手段が目的化している。金融機関に資金を投入するより、疲弊してきている地域の産業を育成することなどに資金は使われるべきです。現に不良債権は着実に処理しているにもかかわらず、厳しい経済状況下で新たな不良債権が次々生まれてきている」。また、「金融機関の財務体質の強化が強調されると、その裏返しとして融資の選別圧力につながりかねない。信金の合併等の目的がそこにある場合、本来の信用金庫としての役割が果たせるのか、弱小金融機関の再編を意味する金融制度改革に大きな疑問のあるところ」とも話しています。

同友会の「金融アセスメント法」運動に共感

 金融庁はペイオフ解禁を前に、信金・信組から財務状況の日報体制を取り、監督強化しています。

 金融検査マニュアルの一律適応が問題になる中、リスク管理とともに各手続きにおける法令重視体制をとらせるために、各金融機関に対し「コンプライアンス(法令遵守)マニュアル」の制定を指導。これによって「自己責任経営の制約が課せられる」と楽木氏。

 「決算書の数字だけでは中小企業を評価することはできない。地域での信用や役割などさまざまな要素を加味する必要がある。当金庫では『検査マニュアルがあるから融資できない』とは絶対言わない。監督官庁と見解が違えば両論併記で報告してもらうくらいの自信を持つよう、職員には話している」とも言います。

 同友会が制定運動を進めている「金融アセスメント法」には、「信用金庫法第1条の精神が入っており、共感している。中小企業のみなさんも今の金融行政は『大変だ』との厳しい認識を持つべきと思います」と話しています。

*「要管理先」とは、「要注意先」(赤字企業及び1カ月の返済延滞等回収に注意する先)の中で、業況低調もしくは不安、財務に問題があり、元利金が事実上延滞し、貸出条件の変更のある先。直接償却の対象である「破綻懸念先」以下の予備軍となっている。

(つづく)

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