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シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年3月15日号より

シリーズ10

地域金融機関は小規模だからこそ

米国コミュニティ銀行の経営に学ぶ

金融再編政策はすでに破綻

由里 宗之 中京大学商学部助教授に聞く


 本シリーズの8回(2月25日号)で、日興信金の小野澤理事長が、金融機関が「地域密着であるためにも『信金は預金量5000億以上になってはいけない』(由里宗之・中京大学商学部助教授)との意見に賛成です。顧客から理事長の顔が見えなくなってしまうからです」と発言していました。

 由里宗之氏は東京都信用金庫協会調査部と共同研究し、小野澤理事長など5つの信金の理事長にインタビューして「改めて問う、真に地域に根ざした信用金庫のあり方」という調査結果を昨年末に発表。アメリカのコミュニティ銀行の研究では国内の第一人者であり、証券アナリストでもあります。この間の金融再編の問題点、中小企業へ与える影響などについて由里宗之氏に話を聞きました。

 いまの日本の金融行政では、中小企業を育成する地域金融機関の本来の役割をないがしろにし、産業育成の地域基盤を自ら失うことにつながっていくと思います。

 「聖域なき構造改革」にせよ、グローバルスタンダードにせよ、その範はおおむねアメリカとされていますが、「効率性を最重要視し、不適格な者は容赦なく切り捨てられる」など、アメリカに対する偏った見方が跋扈(ばっこ)しすぎているようです。しかし、アメリカには協同し仲間を支え合うという「協同の風土」があり、アメリカのコミュニティ銀行も厳しい金融再編の中で地域の中小企業の生命線としての役割を担いつつ健闘しています。

地域金融機関は中小企業と同じ目線で

 わが国の信用金庫の存立基盤である「地域社会における協同」というモットーは、戦前の市街地信用組合の草創期からアメリカのコミュニティ銀行のモットーと強い親近性を有しています。わが国の信金にしてもアメリカのコミュニティ銀行にしても、その収益の生命線は地元地域での中小企業融資です。

 私が「信金は預金量5000億以上になってはいけない」と言ったのは、中小企業融資をその収益の生命線とする地域金融機関にとって、融資や地域を見る目線を、中小企業と同じにする必要があるからです。アメリカのコミュニティ銀行の定義は預金量10億ドルが上限です。

 日本の場合ならば、職員数も百数十名くらい。理事長が融資部などの職員と日常的に意見交換ができる状況にあり、中小企業と同じ感覚で経営し、地域との関係を築いていくことで、都市銀行がケアできない地元の商店や工場に食い込んでいくことが「コミュニテイバンク」を名乗る条件でしょう。

 財務分析でも非常に優れた数値となっている目黒信金は、理事長のいるフロアに融資審査部の職員もおり、その電話や応対などで信金内の状況を理事長が日常的に把握できる環境です。

本来の金融機関の仕事は?

 貸出という銀行業務の本質は貸出(見込み)先に対する事前・事後の審査という情報収集・蓄積・加工活動です。その貸出(見込み)先が中小企業の場合には財務諸表の定量的なデータにもまして、経営者の経歴・経験・金銭概念や家族も含めた資産保有状況等、定量化されていない定性的なデータが審査にとって重要にならざるをえません。

 預金・決済サービスの提供というリレーションシップ(取引関係)から始まって、短期信用供与、中長期の信用供与へ。このような継続的な関係に基づく貸出を「リレーションシップ貸出」とアメリカでは呼んでいます。

大手行は中小企業融資に不向き

 昨年1月のG10(主要10カ国財務省・中央銀行総裁会議)で公表された『金融業界の再編』では、「多くの国で、銀行システムの再編は多数の小銀行を巻き込んだ。そのような金融機関の数が減少することにより、中小企業への資金供給に支障が生ずるかもしれない」と懸念を表明しています。

 大手行が中小企業融資に不向きなのは、根本的には大手行には地域社会と目線を等しくして協同し合う組織的風土が欠落しているからです。

 中小企業とのリレーションシップづくりには「足で稼ぐ」渉外部隊が必要ですが、大手行は貸出ロットの小さい中小企業へ多額の人件費をつぎ込むことはしない。また職員の転勤の期間が短く、関係を作りにくい。顧客満足度を向上させるためには決済権限者間の組織的ラインが短いほうがいいのですが、巨大なヒエラルキー構造の大手では困難です。

地域全体で地域金融機関を監視―コミュニティーガバナンス

 アメリカでは監督官庁や預金保険機構の幹部に、もとコミュニティ銀行のトップが入っており、コミュニティ銀行は不可欠な金融機関の1つであり、政治や公共政策でもコミュニティに配慮することが最重要課題とされています。

 「too big to fail(大きすぎてつぶせない)」大手銀行に比べ、つぶされやすい中小金融機関は十二分な内部留保が必要で、収益・財務基盤を確立することが求められています。実際、アメリカのコミュニティ銀行は、大手行よりも高い預貸利ざやを得ています。これは銀行の蓄えでなく、「地域の蓄え」との位置付けです。

 「コーポレートガバナンス」で株主や監査人の目で企業を見ていくというのがありますが、「コミュニティガバナンス」=「地域の目」はそれ以上に厳しい。強い倫理的な監視が金融機関にかかることで、何かあったらその地域にいられなくなるくらいの厳しい制裁が加えられます。ですから、コミュニティ銀行の蓄えもみんなで監視していくというスタンスです。

キャッシュフローを重視して

 高度経済成長期には銀行は1000万円貸し出すとき、そのうち200万を定期に入れさせるというような貸出をしていました。しかし今はキャッシュフロー重視の時代です。金利が少し高くても、借金を少し減らせば、返済額は同じですみます。企業もキャッシュフローがプラスであれば十分貸出条件は満たされるはずです。

 地域金融機関は大手行や地方銀行と異なり、経済的理由(具体的には自己査定や、早期是正措置の機械的運用)のみで解体・再編されるべきではありません。協同の風土の大切さを知っている中小企業経営者は骨身を削ってまでも返済の約束を守ってくれるものであり、一律の査定で融資を切ってしまわざるをえないような状況が続けば、地域経済は疲へいしてしまうからです。

矛盾だらけの金融行政

 大手銀行出身者の多い金融庁では、地域金融機関の役割やそれが小さな経営体であるという意義は理解されていません。大手行もますますグループ化されて巨大化していく中で、たとえばみずほだけでユーロ金融市場で1日1兆円を超える取引があることをどれだけ認識しているのでしょうか。もしみずほに何かあったら、そのリスクは世界規模です。

 そういった大手行の巨大化によってもたらされるリスクをどう監督するのかという問題を、だれが責任を持って指摘するのでしょう。

減らすべきは大手行の規模

 オーバーバンキング論に後押しされた金融機関再編の促進は、「信用」を売る金融機関が巨大化し、地域からその経営が見えなくなり、確実にその質が落ちてくる。また、これだけ大きくなると規模の利益も出てきません。アメリカの大手銀行には財務省の金融通貨監督官局から職員が常駐しているのです。

 アメリカの実証研究でも銀行は預金量10億ドルで規模の経済は出尽くし、次に規模の経済がくるのが巨大銀行ということになっています。

 ただ、日本の大手行の財務分析を公的資金・繰延税資産など除いて行うと、すでにかなりの銀行が債務超過状態。外国のアナリストはそのことをよく知っているのです。

 金融業界については産業総体として過剰だという認識は私にもありますが、過剰なのは金融機関の数ではなく、大手が大きすぎるということです。20%減らすなら地銀も含めた大手の支店や規模を減らすべきです。

 このように金融行政をはじめ、今の「官治」(官庁が政治を治める)システムはすでに破綻しています。同友会で運動されている「金融アセスメント法」で、第三者機関が金融機関を評価するような、「民」の声をきちんと反映する仕組みが大切なのです。

(つづく)

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