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シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年3月25日号より

シリーズ11

不良債権処理は「企業整理」
「身近な倒産」としないために

(株)帝国データバンク情報部長 熊谷勝行 氏 に聞く


 4月のペイオフ解禁まであと1週間足らずとなりました。3月8日、中部銀行が金融庁へ破綻処理を申請。これで退場すべき銀行はすべてその処理を終え、「体制整備は、銀行についてはでき上がった」と金融庁は見ています。また、14日の参議院財政金融委員会で柳澤金融担当大臣は、「中小企業を含む健全な取引先に対する資金供給の円滑化を図るとともに、主要行の破綻懸念先以下債権のオフバランス化は、再生可能な企業につき極力再生の方向で取り組むよう金融機関に要請」していると所信表明しました。

 不良債権処理が与えた中小企業への影響について、帝国データバンクの熊谷情報部長に聞きました。

露呈する債権放棄の矛盾

 ペイオフ解禁を前に、急ピッチで進められている不良債権最終処理は、一般的には「金融機関の経営の健全化」という視点で論じられることが多いのですが、こちらから見れば明らかに「企業整理」です。

 大手銀行の11兆7000億円の「破綻懸念先」を直接償却、つまり倒産処理すると金融庁が打ち出したとき、私は小泉改革と呼ばれる構造改革の基本は「弱者切り捨て」にあるのではないかと考えました。

 大企業には債権放棄という借金棒引きをやって本業を立て直してやる一方で、銀行の財務の底に吹きだまった破綻懸念以下の不良債権(ほとんどが中小企業ですが)を倒産して整理する。この2つの流れで不良債権最終処理は行われています。中小企業を倒産整理しても引当は十分積んであるので銀行は傷つくことがないという仕組みです。

 しかしながら、今月倒産した「佐藤工業」は昨年12月の「青木建設」に続いて債権放棄ゼネコン2社目の倒産で、1月の「殖産住宅相互」のケースも含めて、借金棒引きは銀行や企業の信用を毀損するだけで、企業再建の有効手段にはなっていません。

倒産件数、戦後最悪を更新か

 倒産件数は、今年1月に入ってから、また1つレベルの上がった動きになっています。1、2月は倒産件数が前年同月比19%、18%増。1964年の調査開始以来、この時期としては最高の件数(2月は1712件)となっており、負債額(同月1兆2713億7000万円)も含め、天井の見えない動きとなっています。

 2001年度に上場企業が17社倒産。昨年1年間で14社が倒産、そして今年に入って3月の佐藤工業やファーストクレジットを入れるとすでに10社の大型企業倒産です。今年に入ってからいかに急激に状況が変化しているかが分かります。

 今年度の累計がすでに1万9441件。このままでは、オイルショックと円高の影響で戦後最悪を記録した84年の2万841件を、確実に更新することが予測されます。

不況型倒産が75%超

 「モノが売れない」などの不況要因によって倒産に追い込まれた「不況型倒産」企業が75%以上を占め、バブル崩壊後10年間、1直線に右肩上がりに増加しています。売上が半減、あるいは3割くらいにまで落ちて、赤字が続き、高止まりした借金がそのままで、銀行の支援を打ち切られて倒産というパターンです。以前は「ジリ貧」倒産といっていましたが、最近は「急減」です。落ち始めると止まらないことがデフレの怖さです。

 また、息切れ状態か、特別保証制度利用後の倒産が1、2月とも急増しています。

老舗倒産は「新陳代謝」ではない

 業歴30年以上の「老舗倒産」は、構成比で27・7%で過去最悪を記録。信用調査では業歴20年以上の企業にはその項目で満点がつきますが、資産デフレで資産価値を失い、担保を持っていたがゆえに借金が重くなって苦境に立たされています。資産デフレや物価下落で売値が半値に落ちて利益の出る体質を作れないからといって「生きていく価値のない企業」とは言えない。また、地域で知名度のある企業の倒産は、地域に与える精神的なマイナス影響も大きい。

 これは決して経済的な新陳代謝ではない。ITベンチャーが四苦八苦している現状を見ても、資産や資本のない企業はビジネスモデルだけではやっていけないのが現状です。古い体質の企業がなくなった後に新しい芽が生まれるというのは、バブルのころまでの景気循環型のイメージに過ぎません。

「身近な倒産」をどう乗りきるか

 生きている企業にとっても「倒産」はとても身近なことでしょう。現在の倒産は個別特殊なことではないからです。銀行の指導のもとでの企業再建は、債務返済のためにリストラ、売上ダウンの計画を余儀なくされ、債務圧縮が最大の経営課題になってしまいます。経営の建て直し、営業の活発化に力を割けなくなり、環境の悪化から脱却できないまま倒産するという過程です。

 今の経営者はまじめな方が多く、借金に追い詰められて「自殺」するなど、深刻な「ストレス倒産」の現状もあります。しかし、考え方を少しかえてみると道は開けます。

 金融機関が、地域や業界での企業の評価をネグレクト(無視)して、バランスシートがダメだから、営業を止めなさいというのはおかしな話です。

 借金が過大かどうか、債務超過というのは、経営を閉めたときにそうなるというだけで、企業存続の立場に立てば、銀行と渡り合う「胆力」を持って、「債権放棄」を交渉するくらいの勢いで借金の返済を猶予してもらい、基幹損益を黒字にしていく。

 資金繰りでは「手形は使わない」くらいの慎重さが大切で、金を使わない、借金しない、会社の金が流出しないようにする、積み立ての取り崩しは絶対避けることです。仕事では新規拡大で力以上の注文を取らない、甘い言葉に乗せられない、「断る」ことも重要です。

経営指針づくりの大切さ

 今年はますます先が見えない状況です。しかし、追いこまれるとあるものも見えなくなってきます。ですから、同友会でやっているような経営指針の成文化は、今とても大切です。自らの会社に何ができるのか、人や技術も含めてどんな資産があるかを見直し、会社の歴史をひも解いてみれば持っている力に気づきます。

 現場でしっかりやってきた経営者は生き抜く力になるものを必ず持っています。実業と向き合って、社員のアイデアも細かく吸い上げる工夫をし、自分の尺度を押し付けず若い人を生かす。自らをゼロにして、冷静に振り返って整理し文章化してみれば、新たな意欲が生まれ、挑戦もできます。

(つづく)

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